高山寺には、非常に多くの経典類が伝来している。平成4(1992)年から平成11年にかけて、高知大学の山本秀人教授を代表とした調査団により、それらの全般にわたる調査が行われ、70箱以上の経箱に経典類が収納・保管されていることが判明した。
大半は、江戸時代中ごろに住職をつとめた第10世・義澄や、明治時代後半の第15世・毛利清雅らによって自他の教学のために収集された冊子本である。しかしそれら以外に、注目すべき古経典がいくつか伝来している。
まずあげられるのが、奈良時代後期に書写された大般若経の1巻と、平安時代後期に書写された紺紙金字の阿弥陀経1巻である(いずれも市指定文化財)。寺伝で、前者は弘法大師筆、後者は聖徳太子筆といわれるように、高山寺にとって非常に重要な経巻と位置づけられており、江戸時代以前から高山寺に伝来していた可能性がある。筆者は不明であるが、黄麻紙にやや太めの謹厳な楷書で記された奈良写経、紺に染めた紙に銀で界線を引き、金字で記した平安後期の装飾経という、それぞれの時代の写経の特徴がよく表れている。
また、近代の第18世住職・曽我部光俊が収集した経巻類にも、貴重なものが含まれている。例えば、鎌倉時代や南北朝時代に、現在の大分県由布市・兵庫県加東市・大阪府和泉市・河内長野市などの地方の寺社で書写された写経がある。また、鎌倉時代・室町時代・江戸時代に、それぞれ高野山の金剛三昧院・奈良の東大寺・京都の北野経王堂において出版・発行された刊経もみられる。
このように、1つの寺院に多種多様な経典が残されているのは珍しいことであり、これも文化財を呼び寄せる不思議な吸引力を持った高山寺の特徴を表す、一つの事例であるといえよう。(学芸課長竹中康彦)
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