和歌山市の南、風光明媚な和歌浦には、徳川家康を祭神としてまつる紀州東照宮がある。その春の例大祭は、和歌祭(わかまつり)と呼ばれる。和歌祭では、神輿が社殿から御旅所へと移る際、様々な扮装をこらした多種多様の行列が練り歩くが、その一つが面掛(めんかけ)である。地元では百面(ひゃくめん)という呼び名の方が通りがよい。面掛はその名称の通り仮面を付けて練り歩く仮装行列で、面と頭巾をかぶって華麗な装束を身につけ、杖や飾りをつけた傘を持ち高下駄を履くという大変賑やかな一団である。
この面掛行列で使われてきた仮面には、神事面・能面・狂言面・神楽面・鼻高面からなる総数97面に及ぶ仮面が含まれている。このうち優れた出来栄えの能面の収集には紀伊藩主の強い関与があり、庶民的な神楽面の追加には和歌浦の村人の関与があるらしいことが分かってきた。
仮面は、知られざる和歌山の歴史を雄弁に物語る重要な資料である。(学芸員大河内智之)