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特別展「京都・安楽寿院と紀州・?あらかわ?」コラム(7・完)

安楽川に伝わる美福門院像
 今回は、直接、覚栄とかかわるものではありませんが、京都・安楽寿院と紀州・?あらかわ?を結びつける興味深い資料を紹介したいと思います。
 安楽川(紀の川市桃山町)にある旧家(奥家)には、18紀ごろの制作とされ、美福門院(1117?1160)と伝えられる肖像画が残されています。
伝美福門院像  個人蔵
(伝美福門院像、個人蔵)
 画面の上には巻き上げた御簾(みす)と帷帳(いちょう)が配され、画面に向かって左側には朱色の几帳(きちょう)を置き、画面の下には繧繝縁(うんげんべり)の上畳(あげだたみ)の上に茵(しとね)を敷いて座る女性が描かれています。
像主(ぞうしゅ)とされる美福門院は、藤原長実(ふじわらのながざね)の娘で、鳥羽上皇(1103?1156)の皇后となり、八条院(1137?1211)や近衛天皇(1139?1155)を生んだ人物です。
鳥羽上皇の三回忌に当たる平治元年(1159)、美福門院は高野山に紺紙金字一切経(こんしきんじいっさいきよう、荒川経)とともに、安楽川荘を寄進しました。
安楽川は美福門院とはゆかりがあり、奥家も美福門院とともに安楽川に来住したという伝承が残されています。
 一方、京都市伏見区竹田にある安楽寿院に隣接して、近衛天皇陵があります。
当初、美福門院の陵墓となる予定でしたが、永暦元年(1160)に美福門院が亡くなった際、本人の遺言により遺骨は高野山に埋葬されたため、陵内には近衛天皇の遺骨が納められました。
この近衛天皇陵内には、勤行所(ごんぎょうしょ、御影堂)と呼ばれる建物がありました。
八条院像 安楽寿院蔵 鳥羽天皇像 259 美福門院像 213
(八条院像)    (鳥羽法皇像)  (美福門院像)   いずれも安楽寿院蔵
 18世紀初めの記録によれば、この勤行所には鳥羽法皇・美福門院・八条院の肖像画(三幅対)が掛けられていたとされています。
いずれも桃山時代から江戸時代初期に制作されたもので、現在、安楽寿院の什物(じゅうもつ)となっています。
伝美福門院像  個人蔵 (部分) 八条院像 安楽寿院蔵(部分)
(伝美福門院像〈部分〉、個人蔵)  (八条院像〈部分〉、安楽寿院蔵)
 ところで、安楽川に伝わる美福門院像(左側)が、安楽寿院の什物である三幅対の肖像画のうち八条院像(右側)に、図様や装束の文様などがかなり類似しており、八条院像を模写したものと考えられています。
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(寄附状、個人蔵)
 さらに、この肖像画には、永禄3年(1560)に安楽寿院から送られたとする寄付状が付属しています。
ただ、この寄附状は、美福門像が制作された18世紀に作成されたものではないかと考えられます。
 美福門院像が模写された時期に、安楽川では周辺地域と山野をめぐる境争論が頻繁に起こっていました。
安楽川では、美福門院像の存在を根拠に、この地が美福門院ゆかりの地であることを明確にし、それを根拠に争論を有利に導こうとした。
模写された背景には、こうした思惑があったのでないかと考えられます。
 永暦元年(1160)に亡くなった美福門院の遺骸が高野山に納骨される際、納骨ルート上に安楽川があり、安楽川の地に一泊したのち、高野山に向かった可能性があると言われます。
そのことがのちに安楽川の地が美福門院ゆかりの地と伝承される背景になったのではないかとも言われています。
 ところで、この二つの画像をめぐって、
 ?安楽寿院に残された画像と安楽川に残された画像で、像主とされる人物がなぜ異なっているのか。
 ?安楽川に残されている画像は、どのような経緯で安楽寿院にあった画像を模写したのか。
こうした疑問点については、十分には解明されておらず、残された課題も多いようです。
 《本文は、毎日新聞2010年9月29日朝刊和歌山版〈第3地域面〉に掲載された「温故知新 わかやまの宝物」を加筆したものです。》
 なお、絵画史の視点からみた二つの美福門院像については、特別展図録に、当館の安永学芸員執筆のコラム(「京都と?あらかわ?の美福門院像の謎」)が掲載されています。また、村上保寿・山陰和春夫共著の『高野への道 いにしへ人と歩く』(2001年、高野山出版社)には「三章 美福門院と安楽川道」が掲載されています。ご参照ください。
 次回のミュージアムトークは、最終日の11月7日(日)午後1時30分から行います。
特別展の会期も、あと5日となりました。
この機会に、二つの美福門像を見くらべてみてはどうでしょう。
(主任学芸員 前田正明)
→和歌山県立博物館ウェブサイト
→特別展 京都・安楽寿院と紀州・?あらかわ?

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