今回の「ハンコの基礎知識」は、前回の予告通り、ハンコの形と呼び方について見ていきたいと思います。
ハンコには、さまざまな形がありますが、基本的には、押されたハンコ(印影(いんえい))の形によって呼ばれることが大半です。こうした印影の形に基づくハンコの呼び方を知っておくと、ハンコの名前を見たり、調べたりする際に、とても便利です。また、押される場所や用途によって、ある程度、ハンコの形が決まっているものもあります。
ここでは、押された印影だけでなく、実際のハンコの印面や、その形のハンコが使われることの多い用途などとあわせてご紹介していきましょう。
(1)方印(ほういん)
印影の形が、ほぼ正方形になっているハンコです。
書や絵のサイン(署名)のあとに押される落款印(らっかんいん)には、こうした方印がよく用いられます。
真砂幽泉使用印「真幽泉印」(陰文回文方印)
(2)長方印(ちょうほういん)
印影の形が、長方形になっているハンコです。
右上に押される関防印(かんぼういん)や、自由な場所に押される遊印(ゆういん)には、こうした長方印がよく用いられます。
桑山君婉使用印「才不才之間」(陽文長方印)
桑山玉洲使用印「体質処文」(陰文長方印)
今回ご紹介したのは、縦長の長方印ばかりですが、横長の長方印もあります。
「南紀瑞芝堂製」(陽文長方印)
(3)円印(えんいん)・楕円印(だえんいん)
印影の形が、円形や楕円形になっているハンコです。
自由な場所に押される遊印には、円印や楕円印がよく用いられます。
野呂介于使用印「介如石」(陽文楕円印)
今回の展示資料のなかには、円印の用例がそれほど多くないのですが、印影としては
など、やきものの箱書(はこがき)に押されたハンコがありますし、
また、実際のハンコとしては、
桑山玉洲使用印「隺鹿(かくろく)」(陽文円印)
などの例があります。
(4)連印(れんいん)
二つの印影が連なった形になっているハンコで、一つのハンコの同じ面に、二つの印面があらわされているハンコです。これは、少しわかりにくいかもしれませんが、実際のハンコを見てみるとわかるかと思います。
落款印には、こうした連印がしばしば用いられ、陰文・陽文が二つの印面で異なることもあります。
桑山玉洲使用印「桑嗣燦印」「明夫」(陰文連印)
このように、方印を縦に二つ並べたような形の連印だけではなく、さまざまな形の連印があります。
桑山君婉使用印 「君」「婉」(陰文楕円連印)
桑山玉洲使用印 「桑」「粲」(陽文楕円連印)
こうした連印は、印影だけから、連印であるかどうかを見抜くのは、なかなか難しいといえますが、同じ連印の印影を何度か目にすると、二つのハンコの間隔が同じなので、あるいは連印ではないかな?というように、ある程度想像がつくようになってきます。
なお、以上に挙げたような形だけでなく、ハンコにはこの他にも、さまざまな形のものがあります。
たとえば、
梅の形をしたハンコに「小」という文字を彫って、「小梅(こうめ)」と読ませたり、
「小(梅)」(陰文梅花印)
このような瓢箪形(ひょうたんがた)のハンコがあったりと、
「御箆」(陽文瓢印)
ハンコの形だけを見ても、さまざまです。
いずれにせよ、ハンコは楽しみながら見てみることが重要です。ハンコの形と文字の配置との関係などにも注目しながら、ハンコを押した人、ハンコを作った人の気持ちを想像して、見てみてください。(学芸員 安永拓世)
→企画展 ハンコって何?
→和歌山県立博物館ウェブサイト