今回の「箱と包みを開いてみれば―文化財の収納法―」のコラムでは、
「火災から中身を守った箱」について、ご紹介しましょう。
和歌山県立博物館からほど近い、和歌山市吹上にある報恩寺(ほうおんじ)というお寺は、歴代の紀伊藩主の夫人や娘などの妻女のお墓がある菩提寺です。この報恩寺には、紀伊藩の初代藩主である徳川頼宣(とくがわよりのぶ、1602-71)の夫人であり、加藤清正(かとうきよまさ、1562-1611)の娘にあたる、瑤林院(ようりんいん、1601-66)という人物が使った品々が残されています。
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写真に挙げたのは、そうした瑤林院の愛用品と伝えられているものの一つで、雅楽という伝統音楽で使う、楽箏(がくそう)という楽器です。楽箏は、13本の絃(げん)がある弦楽器(げんがっき)のことで、一般的には、琴(こと)とも呼ばれています。紀伊藩2代藩主の徳川光貞(とくがわみつさだ、1626-1705)は、瑤林院の菩提を弔うために、この楽箏を、菩提寺である報恩寺に奉納したのです。
ところで、この報恩寺は、第二次世界大戦の空襲をはじめ、大きな火災に2回あっており、いくつかの宝物は、この火災で失われてしまいました。
この楽箏を収納する桐の箱にも、黒く焦げたようなあとが残っているため、この火災のときに火を受けたあととみられます。
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しかし、中身の楽箏本体は、時間によって生じた汚れや傷みは若干みられますが、焦げたようなあとは、ほとんどありません。
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どうやら、この箱に収納されていたので、本体は火災から守られたようなのです。
一般的に文化財の収納に使われる桐の箱や、桐の簞笥には、外の温度や湿度の急激な変化から、中のものを守る効果がありました。桐は、他の木材に比べて熱の伝わりが遅く、火が着く着火温度が高いという特徴があります。
こうした特徴から、火災のような災害にも、桐の箱は中の文化財を守るのに、大きな効果を発揮したのです。
箱によって守られた楽箏を、今回は、箱とともに展示しています。
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こうした機会は少ないと思いますので、ぜひ、ご覧下さい。(学芸員 安永拓世)
→企画展 箱と包みを開いてみれば―文化財の収納法―
→和歌山県立博物館ウェブサイト