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コラム4「玉洲が使っていた画材道具1」

「桑山玉洲のアトリエ」展のコラム4回目です。
展覧会のタイトルに「アトリエ」という言葉がついているのにもかかわらず、あんまり「アトリエ」らしい資料をご紹介していませんでしたから、今回は、玉洲が使っていた画材道具
「画材道具類 (桑山玉洲所用)」をご紹介しましょう。
画材道具類(桑山玉洲所用) 個人蔵(軽)
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画材道具類 (桑山玉洲所用)
(がざいどうぐるい (くわやまぎょくしゅうしょよう))
これらは、桑山家に伝来していた資料で、その後、桑山家の親戚筋にあたる旧家に一括で伝わった画材道具類です。
大半の道具は、「山水図蒔絵箱(さんすいずまきえばこ)」の中に収納されています。
山水人物図蒔絵箱 個人蔵(軽)
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まず、この箱ですが、さらなる詳しい検討が必要なものの、どうやら江戸時代の日本製の一般的な蒔絵箱ではなく、琉球製か、あるいは朝鮮製の漆器ではないかとみられるものです。中に収納されている他の文房具ともかかわる問題ですが、玉洲が、こうした異国の漆器に画材道具を収納していたとみられる点は重要でしょう。
続いて、この箱の中に収納されている道具を、順次見ていきましょう。
最初は、「木製円形五種入子絵具箱(もくせいえんけいごしゅいれこえのぐばこ)(1合)」です。
木製円形五種入子絵具箱 個人蔵(軽)
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手のひらぐらいの大きさの円形の箱の中に、さらに六つの円形の小さな箱が入っており、その小さな箱の中に五種類の絵具や木炭が収納されていたようです。一部には、緑青(ろくしょう)や群青(ぐんじょう)が付着していたり、木炭がそのまま収納されていたりするので、どんな絵具を入れていたのかが、ある程度わかります。写真の右側が小さな円形の箱で、手前から、木炭、緑青、群青を入れる箱のようです。
次は、「木製箱入方位磁針(もくせいはこいりほういじしん)(1合)」です。
木製箱入方位磁針 個人蔵(軽)
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玉洲自身は、廻船業を営んでおり、船などにも乗っていたでしょうから、方位磁針(コンパス)自体は珍しいものではなかったかもしれませんが、こうして画材道具の中に方位磁針が入っているのは、ちょっと面白いですね。
ちなみに、方位磁針の底裏を見てみると
木製箱入方位磁針 底裏 個人蔵(軽)
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「玉洲翁遺蔵」と書かれており、玉洲が使っていたことがわかります。
さて、続いては「印泥(いんでい)(1合)」です。
印泥入長方箱 個人蔵(軽)
印泥 個人蔵(軽)(いずれも画像をクリックすると拡大します)
小さな石製の容器に収められた印泥で、蓋(ふた)の表(おもて)には、梅の花らしき文様が彫られており、かわいらしいですね。
次にご紹介するのは、展示ではもちろん、ページ数の制約のため、図録にも掲載できなかった「墨・絵具収納小箱(すみ・えのぐしゅうのうこばこ)(1合、20点納入)」です。
墨・絵具収納小箱 個人蔵(軽)
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小さな墨や白墨や色のついた彩墨(さいぼく)、代赭棒(たいしゃぼう)などの棒絵具(ぼうえのぐ)、顔料のもとになるとみられる石なども収納されています。
同様に、次に挙げる絵具(10包)も、展示では中の粉末状の粒子が拡散してしまうため、紙に包んだ状態で展示していますが、ここでは、調査のときに少しだけ撮影できた顔料の写真などを、少しご紹介しましょう。
絵具 画材道具(桑山玉洲所用)のうち 個人蔵(軽)
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現状では、「玉洲先生/絵具八包/大切に保存/すべき事」と書かれた大きな紙包に包まれており、その中に、8包の紙包が入っています。その8包を開いていくと、さらに全部で10包の絵具や顔料(がんりょう)が収納されているのです。
紙包を開くと、下の写真のように、絵具や顔料が出ているものもありました。
白緑粉末ヵ 個人蔵(軽) 群青粉末 個人蔵(軽)
銀泥粉末ヵ 個人蔵(軽)(いずれも画像をクリックすると拡大します)
左上は、白緑(びゃくろく)と呼ばれる淡い緑色の顔料で、右上は、群青(ぐんじょう)といいう濃い青色の顔料、
左下は、よくわかりませんが、あるいは銀色の粉である銀粉(ぎんぷん)でしょうか。
また、さらに上の写真の左上に置いてある赤い綿のようなものは、綿臙脂(わたえんじ)という赤色の染料系の色を綿にしみこませたものです。
まさに、使いかけのような状態で残されているのが、よくわかります。
さて、最後にご紹介するのは、「桑山家歴代所用印章(くわやまけれきだいしょよういんしょう)(6顆、朱墨1挺)」です。
桑山家歴代所用印章 画材道具類(桑山玉洲所用)のうち 個人蔵(軽)
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これらは、その名のとおり、玉洲以降の時代の桑山家の歴代の当主が使ったハンコで、それぞれに、どの当主が使ったかという付箋(ふせん)が結びつけられています。玉洲よりも後の時代のものではありますが、桑山家にとっては重要な資料であったといえるでしょう。
なお、さきの「山水図蒔絵箱」の中には、このほか、「刷毛筆(はけふで)(1枝)」、「裂(きれ)(1面)」、「墨(11挺)」が収納されています。
ただ、墨については、表裏の文様などがあり、また、使いかけのものも多く含まれているため、興味深いので、別に、あらためてコラムでご紹介しようと考えています。
ところで、これらの「山水図蒔絵箱」に収納されている道具類とは別に、
「方形絵皿(ほうけいえざら)(1口)、「円形絵皿(えんけいえざら)(1口)」、「真鍮製水盂(しんちゅうせいすいう)(1口)」
方形絵皿・円形絵皿 個人蔵(軽)
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「飛鶴文蒔絵月日貝文鎮(ひかくもんまきえつきひがいぶんちん)(1基)」
飛鶴文蒔絵月日貝形文鎮(紅) 個人蔵(軽) 飛鶴文蒔絵月日貝形文鎮(白) 個人蔵(軽)
(画像をクリックすると拡大します)(写真は同じ文鎮の表裏です)
も、それぞれ別の桐箱に収納されて伝来しています。
こうしたの画材道具類の中には、玉洲以降の歴代桑山家当主が使用したとみられる「桑山家歴代所用印章」なども含まれていますし、また、玉洲没後には、玉洲の妻である桑山君婉(くわやまくんえん、?~1828)や、玉洲の子である桑山曦亭(くわやまぎてい、大奎(たいけい)、1774~1806)が、引き続き玉洲の残した画材道具を使用したとも想像されます。
とはいえ、伝来経緯などを考えると、この画材道具の多くは、玉洲自身が使用していた可能性がきわめて高く、玉洲のアトリエを推察するうえでは、非常に貴重な資料であるといえるでしょう。
こうした画材道具の全てを、広げて展示できているわけではありませんが、とはいえ、画材道具の魅力や面白さ、さらにはそれを使った画家の息吹などは、展示してある資料をご覧いただくことでしかお伝えできない部分でもあります。
ぜひ、展示をご覧いただき、玉洲のアトリエにタイムスリップしていただければと思います。(学芸員 安永拓世)
特別展 桑山玉洲のアトリエ―紀州三大文人画家の一人、その制作現場に迫る―
和歌山県立博物館ウェブサイト

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