最後に、大きな絵をご紹介します。
熊野橋柱巌図屛風 桑山玉洲筆 六曲一隻
(くまのはしぐいいわずびょうぶ くわやまぎょくしゅうひつ)
紙本墨画淡彩
寛政9年(1797)か
念誓寺蔵
和歌山市指定文化財
和歌山県南部の、串本町にある名所・橋杭岩を描いた屛風です。先のコラムでも触れたように、玉洲は、先生について絵を習うよりも、気に入った中国絵画を手本にしたり、風景を見て描く方を好んだようです。玉洲が描いたような、実際の景観に取材しつつ、中国の理想的な風景をオーバーラップさせた絵画を、「真景図」(しんけいず)といいます。絵具箱に入っていた方位磁針も、こうして出かけて絵を描くときに持って行ったのかもしれませんね。
ちなみに、屛風などの大きな画面に絵を描くときは、まん中の方に手が届きません。ですので、屛風を立てて描くほかに、床に屛風を寝かせて、上に橋のように板を渡して、そこに乗って描くこともありました。
さて、突然ですが、この絵は「紙」に描いています。
専門的な言葉で、紙地のことを「紙本」、絹地のことを「絹本」とよびます。また、紙や絹のように、墨や絵具をささえる役割をするものを、「基底材」(または「支持体」)と呼びます。
何色で、どんなふうに描くのかと同じくらい、どんな下地に描くのかということも大切です。それは、下地の特徴によって、絵の雰囲気が変わるからです。昔の日本の絵は、紙に描いたり、絹などの布に描いたりしました。
展示室では、紙と絹に触れるコーナーを用意していました。
ちなみに、なかなか評判がよかったのが、小学校で使うえのぐセットの展示でした。
夏休み企画展「のぞいてみよう!えのぐばこ」のコラムは、以上です。
画家は絶対に大事にしていたはずだけれども、普段意外と気にしない道具や材質。
絵がそこにあれば、それを描いた人がいる。
そんなことに注目していただきたく、夏休み企画展では、明和中学校教諭川端あす香氏と博物館実習生のご協力のもと、ワークショップ「画家になりきり!水墨画体験」も行いました。
参加した小学生のみなさんは、真剣に、楽しんで絵を水墨画を描いてくれました。
和歌山県立博物館にお越しになったときも、他のところで絵をご覧になったときも、ぜひ、道具や材質といった、マニアックなところにも注目し、画家のこだわりを想像してみてください。
きっと、新しい、絵を見る楽しみが生まれるのではないでしょうか。
明日からの企画展「西行と明恵」、特集展示「日本遺産認定記念 醤油の町・湯浅」も、大変充実の展示です。お楽しみに!
(学芸員 袴田舞)