【事業名称】地域と協働して文化遺産の活用と継承を担う博物館づくり事業
【事業主体】和歌山県立博物館施設活性化事業実行委員会
【中核館】和歌山県立博物館
【構成団体】歴史資料保全ネット・わかやま、和歌山県立和歌山工業高等学校
【事業目的】地域における文化遺産をいかに継承していくかという問題は、高齢化や人口減少による地域コミュニティの縮小が全国的に顕在化しする中で、今後より重要性を増してくる。また東南海・南海地震に伴う津波被害が想定される中で、過去の被害記録を避難に活かし、また文化遺産の喪失を最小限に留めるための取り組みも必須となっている。これらの課題に対して県立博物館がその機能（調査・研究・収集・保管・展示・普及）を活用して、地域に伝わる文化遺産の価値・意味の顕在化と共有化を図り、また地域に伝わる文化遺産の新たな保管方法（新技術の利用）の提示と実践を行うことにより、地域と資料との結びつきをより強固なものとして、住民の地域の文化や歴史への関心を高めるための役割を、地元自治体や関係機関などとも連携しながら、能動的に担うことが本事業の目的である。かつ視覚障害者など少数利用者のための鑑賞環境の整備を行うことで、あらゆる人々に開かれ情報を共有化する、新時代の理想的な博物館の構築につなげることをもう一つの目的とする。
【３つの取り組み】
①「災害の記憶」
過去の災害の記憶を地域全体で共有し、継承することで、将来起こりうる東南海・南海地震に対し、地域住民が自らの生命と財産を守っていく活動を支援する取り組みを行った。同時に被災という事態を想定し、被災した文化財を保全する活動の前提となる被害想定地域の文化財の所在確認調査を行った。調査対象地域として白浜町・日高町を設定し、調査を行った。
〈連携〉歴史資料保全ネット・わかやま(民間ボランティア組織)、和歌山県博物館施設等災害対策連絡会議、津波被害が想定される市町村の防災担当部局・教育委員会自主防災組織など
②「お身代わり仏像」
過疎・高齢化等で維持継承の困難となっている集落の文化遺産を最新技術で複製し信仰環境を維持しながら保存継承する防犯への取り組み。精巧な文化財レプリカ（お身代わり仏像）を作製し、田辺市観音寺へ安置し、地域住民との交流を行った。
〈連携〉和歌山県立和歌山工業高等学校、和歌山大学 
③「さわれるレプリカ」「さわって読む図録」
視覚障害者が地域の歴史や文化に関する情報に接するための「さわれるレプリカ」及び「さわって読む図録」を作製した。さわって読む図録は盲学校・点字図書館ほかへ提供した。
〈連携〉和歌山県立和歌山工業高等学校、和歌山大学、和歌山県立和歌山盲学校
【実施後の成果】
①では、調査対象地域を中心に19回の調査を行い、調査報告書の作成と画像データを収集して災害時の被災文化財保全活動の円滑化の基盤を構築した。調査対象地域の住民には小冊子『先人たちが残してくれた「災害の記憶」を未来に伝えるⅤ』(平成31年1月17日発行、2万部)等を関係自治体の協力を得て全戸に配布した。また白浜町と日高町で「災害の記憶」の発掘と文化遺産の所在確認調査で明らかになった内容を住民に伝える現地学習会を実施した(白浜町2月23日参加者53人、日高町2月24日参加者90人。発表資料集を作製し配布)。アンケート調査により発掘した「災害の記憶」について、詳しく知らない参加者が白浜町で8割、日高町では9割いることが明らかになり、今回の事業に大きな効果があったことが確認できた。マスコミ報道も多数あり、コラム「先人たちからのメッセージ 防災減災わかやま」を産経新聞に掲載した（計６回）。
②では県立和歌山工業高校及び和歌山大学教育学部との連携により、田辺市稲成町の観音寺本尊の観音菩薩立像（平安時代後期）の文化財レプリカを作製し、それぞれ実物は博物館で保管して、現地にレプリカ（お身代わり仏像）を安置した。盗難や災害の被害から文化財を守りながら、信仰環境の変化を少なくする取り組みで、被提供者からは「人家から離れた場所だったので安心した」等の意見があり、顕著な防犯、防災効果があった。現地への奉納は平成31年2月26日に行い、製作に携わった高校生5名、大学生1名が地域住民と交流を行った。マスコミ報道も多数あり、事業のアピールにつながった。
③では、田辺市観音寺の観音菩薩立像のレプリカをさわれるレプリカとして活用し、視覚に障害のある方をはじめ、あらゆる人が触れられる資料とした。またさわって読む図録は県立和歌山盲学校との連携して『さわって読み解く那智参詣曼荼羅』を作製した（16ページ）。大画面絵画に示される豊饒な物語と、参詣曼荼羅の用途を平易に伝える内容で、視覚障害者の郷土学習、美術学習の教材とした。活用を図るため県立和歌山盲学校、県内公共図書館、近畿盲学校、主要点字図書館、全国博物館、大学図書館に提供した。全盲の利用者から「参詣曼荼羅というジャンルの絵の内容がよく分かった」などの意見があり、さわれる絵による学習効果が確かめられた。これらの取り組みは視覚障害者が情報にアクセスする手段として高い効果があり、博物館展示のユニバーサルデザイン化を促進させる効果があった。
