【事業名称】文化財を未来世代へ:博物館連携強化・多様化事業
【事業主体】和歌山県立博物館
【課題と目的】和歌山県では過疎化・高齢化を背景に地域の文化財が滅失・散逸等の危機に瀕している。県立博物館の盗難防止や防災の取組は、社会的課題に対応する先駆的な実践活動として評価されてきたが、改正博物館法を踏まえ、他の博物館やより広範な地域主体とのさらなる連携を実現するためには、実践方法の共有を図る新たな取組が不可欠となる。本事業は、人口減少・過疎化・高齢化に直面する地域の文化財盗難を未然に防ぐこと、文化財の未来を担う世代が3Dプリンタ等の先進技術を用いながら地域課題解決に携わる機会を創出すること、またその活動を広域的・汎用的なものとするための基礎を構築することを目的とする。
【2つの取り組み】
1、レプリカの製作
文化財の複製を作り、盗難対策としての「お身代わり仏像」や、可触展示「さわれるレプリカ」などに活用する事業を実施した。複製を製作するのは、県内の高校生や大学生。一人でも多くの未来世代に文化財と向き合う機会をもってもらうよう製作方法を工夫し、県内高等学校3校の生徒・総勢34名と製作に取組んだ。
①重要文化財 菩薩坐像(極楽寺蔵)のお身代わり仏像
造形を県立和歌山工業高等学校産業デザイン科3D-CAD班3年生・7名、着色を県立笠田高等学校美術部3年生・4名が担い、成果物として複製2体(お身代わり仏像・さわれるレプリカ)が完成。地区住民への提供(お身代わり仏像の奉納)は2022年8月10日、さわれるレプリカ展示見学は2022年1月12日に行った。取材・報道等:NHK(橋本)、NHK(和歌山)、NHK(全国)等

②阿弥陀如来坐像(細野阿弥陀寺)のお身代わり仏像
造形を県立和歌山工業高等学校産業デザイン科3D-CAD班3年生・7名、着色を県立向陽高等学校美術部2年生・7名が担い、成果物として複製2体(お身代わり仏像・さわれるレプリカ)が完成した。地区住民への提供(お身代わり仏像の奉納)は2023年3月13日。取材等:読売新聞(和歌山)、朝日新聞(和歌山)、読売テレビ(関西)等

③丹生明神・高野明神・春日明神坐像(滝畑・春日神社)のお身代わり神像
造形を県立和歌山工業高等学校産業デザイン科3モデリング班2年生・8名、着色を同機械加工班2年生・8名が担い、成果物として複製9体(3体ずつ)が完成した(お身代わり仏像・さわれるレプリカ、高等学校保管用)。地区住民への提供(お身代わり仏像の奉納)は2023年1月15日に行い、同日、滝畑地区主催で春日神社御神像遷座式が執り行われ、生徒たちも参列した。

2、お身代わり仏像製作記録集作製事業
今年度のレプリカ製作①~③の製作を記録した本体64頁に附録のDVD(動画4編)付き。編纂には事業に参加した高等学校教諭3名の協力を得て、3Dプリンタを扱う工業高等学校や高等学校美術部で類似の事業に取り組く際に求められる情報や製作に役立った技、博物館に蓄積された下地処理のノウハウなどをまとめている。編集・発行:和歌山県立博物館

【実施後の成果】
レプリカ製作・奉納後には生徒へのアンケートを実施し、製作を通して得た文化財に対する気付きや地区住民との交流による文化継承への意識の変化など、高い教育効果が確かめられた。製作に際しては工程に応じて連携主体を工夫し、文化財複製製作という貴重な機会により多くの未来世代がかかわる製作方法となった。またレプリカの安置に際して地区をあげて神像の遷座祭を開催した事例もあり、連携事業を通して地域の主体と協働した信仰文化の継承が実現した。お身代わり仏像製作記録集編集には今年度初めて連携した教育機関の担当者もにかかわり、初めての取り組みに際して担当者が求める情報を把握し、記録集の内容に反映したため、事業のモデル化のために有益な形で成果をまとめることができた。
