今回の特別展では、初めて公開する作品、いわゆる「初公開」の作品もたくさんあります。ただし「初公開」といった場合、本当の意味での本邦初公開、和歌山県立博物館での公開が初、現地では公開されていたものの寺外・社外では初公開(実物を移動して広く展示するのが初)、などいくつかの種類があります。ここでは書籍などにもまったく紹介されたことのない初公開の作品、また実物を移動しての一般への公開が初という作品をいくつか紹介します。
和歌浦図屏風(左隻)(個人蔵)
和歌浦図屏風のうち藤白峠部分(右上)
和歌浦図屛風(左隻)【展示番号16】は、個人のかたがお持ちの作品で、今回、所蔵者より情報を得て、お借りして展示させていただきました。図録・書籍等に掲載されているものもなく、博物館などで展示されるのも恐らく初めてで、本当の意味での「初公開」だと思われます。この和歌浦図屛風は江戸時代前半頃の和歌浦を描いたもので、特徴的な点は文字を書いた貼紙があり、何を描いているのかなどがわかることです。画面右上をみると、藤白峠と地蔵堂(地蔵峰寺)、金岡筆捨松といった熊野古道も描かれています。それ以外にも和歌浦の風景としても見どころ満載です。隣に展示している紀三井寺参詣曼荼羅とも見比べてみていただけると面白いのではないでしょうか。
加持鼻王子跡
十一面観音像(新宮市教育委員会蔵)
また、伊勢路沿いにある加持鼻王子に関わる古文書と絵画【展示番号103・104】も、恐らく初公開かと思います。こちらは近年、鵜殿神社(三重県紀宝町)の神主を務めた家のかたが新宮市に寄贈されたことで初めて確認することができた資料です。加持鼻王子の歴史、伊勢路沿いの王子社の様相がわかる貴重な作品といえます。
三重県指定有形民俗文化財 獅子頭(尾鷲神社蔵)
熊野市指定文化財 獅子・狛犬(木本神社蔵)
そのほか、自治体史などの書籍で写真は紹介されており、研究者や地元のかたがたにとっては周知の宝物であったものの、博物館等で広く公開はされておらず、外部で初めて実物が公開されることになったものとして、尾鷲神社の獅子頭(三重県指定有形民俗文化財)【展示番号93】、木本神社の獅子・狛犬(熊野市指定文化財)【展示番号99】、周参見王子神社の神像【展示番号70】があります。いずれも写真などでは知られていたものですが、このたび特別にお貸し出しを許されて、展示させていただくことが叶いました。地元のかたでも初めて知った、もしくは知ってはいても実際に見たのは初めて、というかたもいらっしゃいました。本展は、実物を見ることができる貴重な機会となっています。
男神坐像・女神坐像(周参見王子神社蔵)
世界遺産20周年記念の特別展ということで、これまでのよく知られた名宝を展示し20年を振り返るという面もありますが、この特別展では「初公開」の文化財なども展示して紹介しています。この機会に、是非、和歌山県立博物館で熊野古道沿いの寺社の新たな魅力をご覧いただけたらと思います。