スポット展示 博物館のたからもの―令和2年度学芸員実習生による展示―
和歌山県立博物館では、毎年8月上旬の一週間、学芸員実習(学芸員資格の取得を目指す大学生等による学外実習)の受け入れをしています。今年は3名の実習生があり、博物館(学芸員)の仕事を実地に見学・体験し、講義等のほか、各種資料(文化財)の取り扱いなどの実習(実践)も行いました。
今回、当館では初の試みとして、実習生による展示を企画いたしました。作業期間はほぼ一日という限られた条件のなかではありますが、実習生が膨大な館蔵品のなかから各自興味のある資料を選定し、調査のうえ、解説文を作成、資料を陳列する、という一連の作業を通じて、博物館における調査・展示活動の実際を体験してもらう機会としました。まだまだ未熟で荒削りな点はありますが、大学生ならではの新たな視点による資料選定、解説文の作成、陳列もすることができたのではないかと思います。初々しい実習生(未来の学芸員たち)による展示をご覧いただくとともに、当館の館蔵品の新たな魅力についても再発見していただく機会にしたいと思います。
【展示資料】 3 件 8 点
・和歌山焼 染付 草花文向付 5点(館蔵50)
・和歌山焼 染付 草花文水注 1口(館蔵637)
・富くじ当たり番号綴 2冊(館蔵257)
【会 期】 令和2年(2020) 8月9日(日) ~ 10月4日(日)
【会 場】 和歌山県立博物館(和歌山市吹上1-4-14) 2階スポット展示コーナー
【開館時間】 午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分)まで)
【休 館 日】 毎週月曜日、ただし休日(8月10日(月)・9月21日(月)・9月22日(火))は開館し、8月11日(火)、9月23日(水)は休館
(展示風景)
解説文はいずれも実習生が作成しました。
また資料展示にあたって、どこを見せるか、またどのような台を使用するかなども実習生に考えてもらいました。
資料の展示の様子とあわせて解説文(2種、かんたん解説はすべての文字にふりがなを振っています)を紹介します。
(和歌山焼 染付草花文向付/和歌山焼 染付草花文水注)
※画像はクリックで拡大します。
※「和歌山」という銘を見せるため、向付を1点だけひっくり返して展示しています。
【解説文】
和歌山焼は、明治時代初期(明治2年(1869)~3年)に紀伊藩によって新設された開物局の肝煎りで、殖産興業の一環として製造された陶磁器である。製造は、紀州三大窯でもある鈴丸陶器所(和歌山市)と男山陶器所(有田郡広川町)で行われていた。
展示している水注と向付には、四君子(蘭・菊・梅・竹)などの草花が染付で描かれており、側面には「和歌山」の銘がある。
【かんたん解説】幻の和歌山焼?
明治2年(1869)近代化の流れを受けた紀伊藩(和歌山県)も、産業の発展を目指します。そのなかで開物局という組織を作り、その中心として、和歌山の中でも有名な二つの窯元でやきものを作りました。これを「和歌山焼」と名付け、全国に売り出そうとしました。しかし、わずか一年足らずで開物局は廃止されてしまい、和歌山焼が日本中に広く出回ることはありませんでした。
(富くじ当たり番号綴)
【解説文】
江戸時代に流行した富くじの中でも、紀伊徳川家と関わりの深かった熊野三山が最初に行った富くじは、当選金額やくじの発行数などが大規模であった。
現在展示している二冊は、天保5年(1834)の2月と10月に大坂今宮えびすで行われた熊野三山による富くじの当たり番号とその札が綴られている。この富くじには、くじの札に住所・氏名や川柳などが書かれており、当時の民衆が抱いていた富くじへの夢をうかがうことができる。
【かんたん解説】江戸時代の富くじとその価値
江戸時代の富くじは、いわば現代の宝くじであり、その仕組みの違いもあまりありません。
今回展示している天保5年(1834)の富くじの最高当選金額は、それぞれ約956両と約1000両ですが、これを1両6700円とする試算で現在の日本円に換算すると、およそ640万円と670万円となります。
(当館学芸員 坂本亮太)