去る5月18日、和歌山城下で「和歌祭」が行われました。和歌祭は、徳川家康を祀る紀州東照宮の春の例大祭です。いつもは東照宮がある和歌浦で行われますが、今年は、和歌山城再建50周年を記念した「城フェスタ」に協賛して、城下での開催と相成ったのです。
和歌祭では、社殿での神事ののち、神輿が御旅所に向かう際、神輿の後ろにさまざまな練り物がついて大行列を作りました。例えば山車、唐人、母衣、長刀振、申曳、傘鉾、雑賀踊、餅撞踊などなどがあったことが江戸時代の記録から分かります。その中の一つに、仮面をかぶった仮装行列があります。面掛、面被、百面などとよばれるもので、ここでは面掛行列と表します。
この面掛行列、始められた当初は38人の集団で、のち79人に増えた時期があったようです。そして実際には東照宮に約100面の仮面が残されていますので、行列の構成員がたいへん増えた時期もあるようです。時代とともにその芸態は変化しており、現在は派手な装束をまとい、高下駄を履き、がらがらと音を鳴らしながら子どもを驚かせるという内容です。特に変化しているのは、全員顔に歌舞伎の隈取りのようなペインティングを施して、お面は頭にかぶったりして脇役になりつつあることです。
ところでこの面掛行列で使用されてきた仮面は、中世?近世に制作された能面・狂言面・神事面・神楽面などからなるもので、他には類例のない古い仮面がたくさん含まれています。面掛行列で使用されたが故に、とても古い仮面が今日まで残ったといえ、「奇跡の仮面」といってもよいでしょう。しかもそういった事実は、つい最近になって判明したことなのです(和歌山県立博物館の平成17年開催特別展「きのくに仮面の世界」)。中世仮面が新たに大量に見つかることは全国的にみてもまれなことです。
例えばこの写真に写っているお面は、桃山?江戸初期頃の小飛出という能面(後ろの裃着けて笠をかぶった祭奉行は和歌山市長さん)。破損したり色の塗り直しもあったりしますが、できばえの優れた貴重な仮面が今でも現役で使われているのです。そういった優れた仮面の収集には紀伊徳川家の関与も想定されるところです。近年はこれら仮面の保護のため、NPO和歌の浦万葉薪能の会が新たな仮面を製作・奉納し、使用する仮面の切り替えが図られつつあります。
和歌山県立博物館では、この面掛行列で使用されてきた仮面群の全てを一堂に展示する企画展「奇跡の仮面、大集合!―紀州東照宮・和歌祭の面掛行列―」を7月19日(土)から8月31日(日)の会期で開催します。誰も見たことがなかったその仮面群の全貌を、ぜひとも多くの皆様にご鑑賞頂きたく存じます。
企画展開催に併せて、全仮面を掲載する図録も作成いたします。この和歌山県立博物館ニュースでも、どんどん情報をご提供致しますので、なにとぞご注目下さい。(学芸員大河内智之)
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