和歌山県立博物館友の会マイミュージアムギャラリー
第21回展示 「重箱に「こころ」を詰めて」
【出 陳 者】 白井 陽子
【展示期間】 平成22年10月2日(土)?11月19日(金)
【出陳資料】 松鶴文重箱(昭和時代)
【資料をめぐる思い出】
「父亡き後、長く1人暮らしだった母が逝き2年、ようやく遺品の整理をする気持ちになり、この重箱を見つけました。昭和28年(1953)、弟が生まれたとき、紅白の朧饅頭を詰めて近所に配るのを手伝った記憶が蘇ります。
当時、お見舞いやハレの日には、よくこの重箱を使っていました。お見舞いの際は、底に籾殻を敷きつめ、その上に卵を並べ、南天の一葉をのせました。私が子を産んだ時には、父母は、大きな白い丸餅と細長く楕円形に丸めた黄色の餅をこの重箱で届けてくれました。「心(白餅)は丸く、気(黄)は長く」孫が健やかに育つことを願って。
最近、慶事のとき饅頭を配ったことが記された江戸時代の古文書を目にする機会があり、この重箱の思い出と重なりました。父母は、その「こころ」を重箱に詰め、生活の中で歴史を伝えつないでいたのだと思うと感慨もひとしおです。」
【学芸員の一口メモ】
重箱とは、複数の段を重ねた容器で、略して「重<じゅう>」ともいいます。1603年に日本イエズス会が刊行した日葡辞書<にっぽじしょ>には「三つ、または、それ以上の部分に分かれている箱で、互いに重ね合わせて、ただ一つの箱に見えるような具合になっているもの」とあります。黒漆地に吉祥文様を描いたものが多く、酒器や小皿などを組み合わせた提げ重<さげじゅう>(行厨<こうちゅう>、花見弁当とも)もあります。
重箱を用いた慣用句としてよく知られる「重箱の隅を(楊枝で)つつく」は、些細な点まで干渉、詮索することですが、全く逆の意味を持つものに「重箱の隅を杓子で払え」「重箱を擂粉木<すりこぎ>で洗う」があります。こちらはあまり細かい点まで干渉しないで大目に見ることの例えです。重箱の隅に心のありようを重ねるほどに、身近にありながら特別な器であったといえるでしょう。
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