トップページ >博物館ニュース >いろいろな道成寺縁起―道成寺縁起C本―

いろいろな道成寺縁起―道成寺縁起C本―

紀伊半島を舞台にした有名な物語といえば、やはり道成寺縁起でしょう。
道成寺縁起は、日高川町にある道成寺を中心にした安珍と清姫の物語です。
今でも600円で宝物と、道成寺縁起を用いた絵解きを拝観することができます。
記録によれば、江戸時代では、100文(今の約1000円)で道成寺縁起の開帳が行われていました。
道成寺縁起の内容を簡単に記すと次の通りです。
安珍は熊野参詣の際には真砂庄司清次の家を定宿にしていました。
そこに一人の娘がいました。その娘を清姫といいます。
あるとき安珍が熊野へ参る途中、例の如く清姫の家に泊まり、
帰りに清姫の家に立ち寄り、結構して、一緒に東北へ連れて行くと約束をしました。
しかし、安珍は約束を破り、清姫の家には立ち寄りませんでした。
怒った清姫は安珍を追いかけ、日高川を渡りながら大蛇に変身します。
安珍は道成寺へ逃げ込み鐘の中に隠れますが、清姫に見つかってしまいます。
大蛇となった清姫は鐘に巻きつき、火を吐いて、安珍を焼き殺します。
その後、安珍と清姫は蛇の姿となり、道成寺の僧の夢の中に現れ、
僧に法華経の供養をしてくれるよう頼みました。
そして、僧が法華経を書写・読誦して、供養したので、二人は成仏することができました。
道成寺縁起からは、多くの伝説が生み出されました。
例えば、熊野古道の沿いの村々には、清姫の生誕地である真砂(田辺市)をはじめとして、
捻木(ねじき)(田辺市)、清姫井戸(田辺市)、清姫腰掛け石(御坊市)、
清姫草履塚(御坊市)など、史実かどうかはわかりませんが、
安珍と清姫の伝説にまつわる場所は多くあります。
清姫誕生地
(清姫の生誕地と伝える真砂 薬師堂)
捻木松
(清姫が怒りで杉の木をねじ曲げたという捻木)
蛇塚
(道成寺の近くにある蛇塚)
さらに安珍と清姫の話は、異本である日高川草紙、奈良絵本、
能・歌舞伎・文楽・民俗芸能など、様々なかたちで広がっていきました。
絵巻物の道成寺縁起自体も色々な種類のものが作らます。
和歌山県立博物館でも、6巻(5種類)の道成寺縁起を所蔵していますが、
それぞれに絵や詞書(ことばがき)などが異なります。
法華経供養の場面が描かれないもの(A-1本)や、
安珍と清姫の出会いの場面に結末を予想させる蛇を描くもの(E本)など様々です。
描いた人や目的、描かれた時代などに応じて、色々な道成寺縁起が作られました。
各種の道成寺縁起を比較すれば、その文化の広がりや使われ方などがわかります。
なかでも道成寺縁起(C本)は興味深い内容となっています。
本文が「御(ご)座(ざ)ります」「申します」など、話し言葉で記されており、
江戸時代における道成寺縁起の絵解きの様子をリアルに伝えてくれるものです。
C本見送り
(安珍を見送る清姫) 
C本安珍清姫
(安珍を追いかける清姫) 
C本鐘巻
(鐘に巻きつき火を吐く大蛇となった清姫)
巻物全体に細かな折り目がたくさん残り、
小さく折りたたみ持ち運んで使っていたものと思われます。
まさに出張絵解き用の道成寺縁起といえましょう。
また、道成寺の成り立ちや、蛇塚・「蛇むろ」など道成寺周辺の伝説地を紹介しており、
道成寺周辺の観光案内としての要素もあります。
企画展「きのくにのむかしばなし」では、道成寺縁起を会期中に4回展示替えを行い、
和歌山県立博物館で所蔵する5種類の道成寺縁起をすべて紹介します(巻首から巻末まで)。
この機会に是非、様々な道成寺縁起を見比べてみてください。
(学芸員 坂本亮太)

ツイートボタン
いいねボタン