博物館の所蔵品のなかから数点を取り上げて、
約1か月ごとのテーマに合わせて無料で公開する「スポット展示 季節のしつらい」。
昨年(2010年)の5月からスタートしたスポット展示については→こちらをご参照ください。
新しい年を迎えた9回目の今回のテーマは
新春を寿(ことほ)ぐ
【会期:2011年1月6日(木)?2月2日(水)】
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今年も新しい年がはじまりました。新年の門出(かどで)を祝う一月は、一年でもっともおめでたいことを喜ぶ月です。日本の美術や工芸の分野では、こうした新春にふさわしい吉祥(きっしょう)をテーマとした作品が、数多く残されています。
今回は、七福神(しちふくじん)や福禄寿(ふくろくじゅ)などのように、中国や日本で信仰された福をもたらす人物とともに、今年の干支(えと)であるウサギにちなむ工芸品も、ご紹介しています。
☆12月の異名
師走(しわす)・晩冬(ばんとう)・季冬(きとう)・大呂(たいりょ)・春待月(はるまちづき)・梅初月(うめはつづき)・年積月(としつみづき)・窮冬(きゅうとう)・極月(ごくげつ)・臘月(ろうげつ)・嘉平月(かへいげつ)・三冬月(みふゆづき)
☆1月の異名
睦月(むつき)・初春(しょしゅん)・孟春(もうしゅん)・太簇(たいそう)・年端月(としはづき)・霞初月(かすみそめづき)・早緑月(さみどりづき)・解凍(かいとう)・開春(かいしゅん)・孟陬(もうすう)・甫年(ほねん)・子の日月(ねのひづき)
以下は展示資料の解説です。
?七福神図 真砂幽泉筆
(しちふくじんず まなごゆうせんひつ)
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1幅
絹本著色
江戸時代(18?19世紀)
縦35.1? 横43.9?
右から福禄寿(ふくろくじゅ)、寿老人(じゅろうじん)、弁財天(べんざいてん)、恵比寿(えびす)、大黒天(だいこくてん)、布袋(ほてい)、毘沙門天(びしゃもんてん)の順に七福神(しちふくじん)を描いた絵です。七福神は、それぞれ本来は中国の道教(どうきょう)や仏教などで信仰されたものですが、日本ではとくに幸福をもたらす神として信仰されました。
絵の筆者は、紀伊藩田辺領三栖組(たなべりょうみすぐみ)の大庄屋(おおじょうや)の家に生まれた真砂幽泉(まなごゆうせん、1770?1853)です。幽泉は、若い頃に京都へ出て、狩野派の画家である鶴澤探索(つるざわたんさく、1729?97)に絵を学び、郷里の田辺へ帰ってからも多くの絵を描きました。この絵からも、狩野派に学んだあとがうかがえます。
?清寧軒焼 赤楽茶碗 銘「福禄寿」
(せいねいけんやき あからくぢゃわん めい「ふくろくじゅ」)
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1口
江戸時代(19世紀)
高9.2? 口径10.2?
清寧軒焼(せいねいけんやき)は、紀伊藩11代藩主の徳川斉順(とくがわなりゆき、1801?46)が焼かせた御庭焼(おにわやき)ですが、この茶碗は、箱書(はこがき)や付属資料によると、10代藩主の徳川治宝(とくがわはるとみ、1771?1853)が斉順の別邸である湊御殿(みなとごてん)の庭でみずから作り、それを楽旦入(らくたんにゅう、1795?1854)という京都の陶工が焼いたもののようです。底には葵紋(あおいもん)の印が捺(お)されています。箱書には、南紀男山(なんきおとこやま)の土を用いたと記されており、表千家10代家元の吸江斎(きゅうこうさい、1818?60)が、「福禄寿」というおめでたい銘(めい)をつけています。弘化3年(1846)に外山直徳なる人物が、紀伊藩から拝領したようです。
(見込み) (底面1) (底面2) (底面葵紋印)
(内箱蓋表) (内箱蓋裏) (外箱側面1) (外箱側面2)
(書付1) (書付2)
?葵紋板文庫
(あおいもんいたぶんこ)
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1具
江戸時代(19世紀)
縦27.1? 横21.3? 高7.6?
板文庫(いたぶんこ)とは、二枚の板で書物をはさみ、板の左右に通した紐(ひも)で結ぶ草紙ばさみの一種です。この板文庫は、硯箱(すずりばこ)の機能も備えたもので、上板の上に文房具類が置かれています。これらの文房具には、紀伊藩領内の特産品が用いられており、船の帆の形をした硯は那智(なち)の黒石、筆の軸は和歌浦の葦(あし)、墨は藤白墨(ふじしろずみ)、兎(うさぎ)形の水滴(すいてき)は大崎の白石、地板と硯の蓋(ふた)および刀子(とうす)・錐(きり)の鞘(さや)は田辺の白栩(しろとち)で作られています。下板の表に描かれた白菊(しらぎく)は、吹上(ふきあげ)の白菊として和歌山ゆかりの主題ですが、長寿を意味する吉祥主題でもあります。
(上板硯置) (兎形水滴) (藤白墨表)(藤白墨裏)
(書付)
参考解説
七福神とは
◆福禄寿(ふくろくじゅ)…中国の道教の神で、道士(どうし)である天南星(てんなんせい)の化身、あるいは南極星(なんきょくせい)の化身。頭巾(ずきん)をかぶり道服(どうふく)を着る。長寿神。
◆寿老人(じゅろうじん)…福禄寿と同一神で、南極星の化身。長頭で杖(つえ)と巻物を持ち、鶴(つる)を連れる。長寿神。
◆弁財天(べんざいてん)…インドのヒンドゥー教の女神であるサラスヴァーティー神。琵琶(びわ)を持つ。財神。
◆恵比寿(えびす)…日本の土着信仰の神。釣り竿(つりざお)と鯛(たい)を持つ。漁業神・商売神・農神。
◆大黒天(だいこくてん)…インドのヒンドゥー教のシヴァ神と日本の神である大国主命(おおくにぬしのみこと)の習合(しゅうごう)。米俵(こめだわら)に乗り、小槌(こづち)を持つ。財神・食物神。
◆布袋(ほてい)…中国の唐時代の僧侶。大きな袋を持つ。財神。
◆毘沙門天(びしゃもんてん)…もとはインドのヒンドゥー教の神で、仏教の多聞天(たもんてん)。甲冑(かっちゅう)をつけ、片手に宝塔(ほうとう)、片手に宝棒(ほうぼう)または戟(げき)を持つ。武神・財神。
今回のスポット展示は2月2日までです。
ちなみに、翌日の2月3日は旧暦の1月1日、いわゆる旧正月となります。
まだまだ寒い季節ですが、この機会に、博物館で七福神などの、正月にちなむおめでたい主題を楽しんでみてはいかがでしょうか?
なお、このスポット展示は、どなたでも無料でご覧いただけます。(学芸員 安永拓世)
→和歌山県立博物館ウェブサイト
→これまでのスポット展示