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ミュージアムトーク2回目(ハンコって何?)

本日、12月17日は、企画展「ハンコって何?」の2回目のミュージアムトーク(展示解説)がおこなわれました。
今日は、朝からとても寒い日でしたが、そんな寒い中、7名の方々がトークに参加してくださいました。
トークの風景はこんな感じです。
2011-12-17 トーク風景1 2011-12-17 トーク風景2
2011-12-17 トーク風景3
今日のトークには、和歌山新報の記者の方もご参加いただき、トーク終了後には、記者の方が参加者へ取材をしておられました。
みなさま、トークへのご参加、および取材へのご協力、まことにありがとうございました。
今日のトークでは、紀伊藩10代藩主である徳川治宝(とくがわはるとみ、1771-1853)のハンコや、紀伊藩の関係者のハンコを制作した篆刻家(てんこくか)について、いくつか質問や意見が出ました。
篆刻家とは、ハンコを作る職人や芸術家のことで、今回展示している資料の中には、そうした篆刻家が制作にかかわったことがわかるものも、いくつか含まれています。
その中でも興味深いのが、徳川治宝のハンコを制作した経緯を記した「徳川治宝使用印制作記録」です。
この記録を書いているのは、大江茂宣(おおえしげのぶ)という篆刻家のようで、良山(りょうざん)という篆刻家が作った治宝のハンコの文字について、その字の間違いを指摘しています。そして、茂宣は、その字の間違いを訂正し、正しい書体のハンコを制作して、治宝に献上しているのです。
下の写真は、訂正前のハンコの写真と、訂正後のハンコの写真。
どこが、どう違うか、わかりますか?
良山刻「恵露仁風」(陽文楕円印) 大江茂宣刻「恵露仁風」(陽文楕円印) 楕円形のハンコは「恵露仁風(けいろじんぷう)」
良山刻「特進治宝之章」(陰文方印) 大江茂宣刻「特進治宝之章」(陰文方印)四角いハンコは「特進治宝之章(とくしんはるとみのしょう)」
「恵」の字と、「章」の字が異なっているのに気づきましたか?
どちらも、左側のハンコが良山の作った間違った書体で、右側は茂宣の作った正しい書体。
それにしても、こんな小さなことで訂正されたら、たまりませんね…。
トークの参加者の中には、
「お殿様のハンコの文字を間違えて、
良山さんがお手討ちにならなかったか、とても心配です。」

という、良山びいきのご感想もありました。
ところで、大江茂宣については、現段階で、どんな篆刻家なのか分かっておらず、あるいは紀伊藩士ではないかと考えられるのですが、じつは、この文字を訂正された良山の方が、現在では、少し名の知られた篆刻家です。
良山は、讃岐国(さぬきのくに、現在の香川県)出身で、主に大坂で活躍した阿部良山(あべりょうざん、1773-1821)の息子にあたる阿部縑洲(あべけんしゅう、1793-1862)ではないかと考えられます。縑洲も良山堂などと名乗りました。
さらに興味深いのは、この良山が、藩主の治宝以外にも、紀伊藩の関係者のハンコを作っていたことがわかっていることです。
その一つに、今回展示している野呂介于(のろかいう、1777-1855)の使用印があります。
野呂介于使用印「呂周輔氏」(陰文回文方印)・「呂隆忠印」(陰文回文方印) 個人蔵 野呂介于使用印「呂周輔氏」(陰文回文方印) 側款 個人蔵 野呂介于使用印「呂周輔氏」(陰文回文方印) 印面 個人蔵 野呂介于使用印「呂隆忠印」(陰文回文方印) 印面 個人蔵
野呂介于使用印「呂周輔氏」(陰文回文方印)・「呂隆忠印」(陰文回文方印)
今回展示してあるハンコの中で、制作者がはっきりとわかるのは、じつは、このハンコだけです。
というのも、ハンコには、側面に制作者を示す「側款(そっかん)」というのを入れるのですが、今回展示してあるハンコの中で、その「側款」があるのは、このハンコのみなのです。
上の左から二つめの写真に「良山人篆刻」とあるのが「側款」です。
この良山は、さらに、徳川治宝の側近であった大村弥兵衛高行(おおむらやへえたかゆき、1779-1834)の跡を継いだ大村高義(おおむらたかよし)のハンコも作っていたようで、高行や大村家で使用していたハンコを集めた「節斎印譜(せっさいいんぷ)」という本には、良山が作った高義のハンコが載っています。
節斎印譜 阿部良山篆刻印部分(小)右上の「高義清玩」(陽文方印)が良山の作ったハンコです。
今回のハンコの展示によって、こうした篆刻家たちと、紀伊藩主あるいは紀伊藩士とのかかわりが浮かび上がってきたのは、とても興味深いことです。
こうした最新の研究成果も、トークの中ではお伝えしています。
ぜひ、トークに参加してみてください。
年末年始のお忙しい時期ですが、次回以降のトークは次の3回です。
1月7日(土)、1月15日(日)、1月21日(土)
時間はいずれも13時30分から1時間程度を予定しています。
なお、会期の初期にお配りしていたチラシでは、1月のトークの曜日が間違っていました。
お詫びして、訂正いたします。
1月のトークにも、ぜひ、ふるってご参加ください。(学芸員 安永拓世)
企画展 ハンコって何?
和歌山県立博物館ウェブサイト

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