和歌山県立博物館では、和歌山県立和歌山工業高等学校の協力を得て、3Dプリンターを用いた文化財の精巧な複製を制作し、文化財の防犯対策を行っています。これは高齢化や人口減少などの要因により、管理や保全が困難になっている地域の寺社等にある文化財を博物館等で保管し、かつ、信仰されてきた環境も従来通り維持するための取り組みで、平成24年度から28年度までの5年間に、県内9か所の寺社に20体の複製を安置してきました。
このたび、10か所目(21体目)となる、高野町花坂の花坂観音堂に阿弥陀如来坐像を奉納いたしました。この仏像は昨年11月より製作していたもので、仏像の計測、データ修正、出力を県立和歌山工業高等学校産業デザイン科の生徒8名が担当し、着色作業を和歌山大学教育学部美術教室の学生3名が行いました。
(左:実物 右:複製)
花坂観音堂の阿弥陀如来坐像は、現在、江戸時代の修理による彩色に覆われていますが、奥行きが深く背筋が伸びた緊張感ある体型や、体部と両脚部材の接合面を湾曲させる技法など、平安時代中ごろ、10~11世紀に造られたものと考えられます。花坂地域にのこる最古の資料ですが、傷みも大きく、また同堂では平成23年に別の仏像が盗難被害に遭っており(→「盗難被害を受けた花坂観音堂の仏像」)、精巧な複製を制作し、「お身代わり」として安置することとなりました。
2月7日(火)11時、高野山の中腹に位置する花坂地区に高校生6名と大学生1名が到着。地区の集会所には、区長・副区長をはじめ地区の住民の方々、そして高野町立花坂小学校の全校児童(5名)、高野町教育委員会の教育長ほか職員の皆さんに集まっていただき、今回の奉納の趣旨説明、複製の制作方法を説明したのち、生徒代表から上田前区長(現副区長)に「お身代わり」の仏像が手渡されました。
その場を借りて博物館から工業高校生徒への感謝状贈呈を行い、地区住民の皆さんに仏像を間近でご覧いただいたのち、花坂観音堂まで全員で移動して仏像を安置しました。真っ先に、花坂小学校の生徒さんにそばで見てもらい、お線香があげられました。
奉納を終えて、博物館副館長よりご挨拶した後、花坂地区の名物の焼きもちをいただきながら、生徒と住民の方々に交流してもらい、帰途につきました。
実際に「お身代わり」仏像を作製した生徒・学生と地域住民の方々が交流することで、地域においては複製仏像を受け入れやすくなり、高校生・大学生においては社会とのより深いつながりを感じ、教育効果を高めることにつながるものと考えています。今後も、和歌山県立博物館がハブとしての役割を果たしながら、県立和歌山工業高校、和歌山大学、地域の方々と連携しながら、大切な文化財を継承するための取り組みを続けて参りたいと思います。(主査学芸員 大河内智之)