和歌山県立博物館友の会マイミュージアムギャラリー
第24回展示 「重箱は輝きを取り戻した―震災復興への光―」
【出 陳 者】 蘇理 剛志
【展示期間】 平成23年3月26日(土)~6月19日(日)
【出陳資料】 沈金蓬萊文重箱(昭和時代・平成時代修理)
【資料をめぐる思い出】
「平成7年1月17日に発生した阪神淡路大震災の時、神戸市東灘区にあった我が家は全壊。家とともに家族の思い出の品も多く喪いました。これは、震災の折に家の瓦礫の中から取り上げた、後に海南市黒江で修理した正月用の重箱です。
家族の話によると、この重箱は長年我が家で使用され、すでに60年以上はお正月に使ってきたそうです。しかし、長年の使用により傷みが激しくなり、漆も剥がれ、歪んだ底板から汁が漏れるなど、そのままではもう使えない状態になっていました。
しかし、我が家にとっては、家族の思い出の詰まった大切なお重。私の祖母も大事にしていましたし、捨てるにしのびず、だましだまし使ってきました。
そんなおり、私が和歌山県への就職が決まり、これを機に思い切って重箱を修理してもらおうと、友人だった海南市黒江の紀州漆器職人である谷岡公美子さん(平成22年に伝統工芸士認定)にお願いすることにしました。
谷岡さんも、こういう依頼は初めてだったようで、傷んだ重箱をどのように直すか、けっこう悩んだそうです。しかし、こちらの意向を十分に汲んで試行錯誤をして下さり、部材はほとんどそのままに、漆をはがした後、傷んだ部分を補修して、その上から丁寧に黒漆を何度も塗り重ねて、見事な黒漆箱を完成させて下さいました。
また、その後の加飾の作業は、谷岡さんの師匠でもある沈金師(ちんきんし)の久世清吾先生(伝統工芸士、和歌山県名匠)に依頼して下さり、いかにも黒江塗らしい豪快な彫りの、松竹梅の重箱として見事に蘇りました。
久世先生も、谷岡さんの塗りが良くて彫りやすかったことから、側面やフタ裏も、かなりサービスして彫って下さったそうで、そのことが、谷岡さんとしてもとても嬉しかったそうです。
結局、完成までに2年近くかかりましたが、本当にすばらしい重箱に生まれ変わり、実家に持って帰ると、家族全員とても喜んでくれました。
これからまた50年、我が家のお正月に欠かせないお重として、震災からの復興の記憶とともに食卓を豪華に彩ってくれるでしょう。
今回はこの重箱に、今年3月11日に発生した東北関東大震災の復興への願いを詰めて展示をしたいと思います。」
修理前の重箱
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