「みんなでつくる、ふれる、つながる文化財の複製」事業報告

【事業名称】「みんなでつくる、ふれる、つながる文化財の複製」事業

【事業主体】和歌山県立博物館施設活性化事業実行委員会

【中核館】和歌山県立博物館

【構成団体】和歌山県立和歌山工業高等学校、国立大学法人和歌山大学、宗教法人熊野速玉大社

【課題と目的】和歌山県立博物館が中核となって進めてきた文化財複製製作事業は、博学連携の体制をもとに、過疎化・高齢化地域を離れ当館寄託となった文化財の複製を製作し、盗難対策として活用するもので、県内外ともに反響が大きく積極的にモデル化を目指してきた。モデル化への課題として、技術的な制約のみならず、対象の選定や事業後の複製活用のあり方、すなわち未指定文化財を対象としてきたことによって、効果・影響の見込まれる範囲が限定的であると捉えられることも、導入前の懸念事項となることが明らかになってきた。

 上記課題の克服には、文化財の複製がもつ利点を発揮して、文化財の保存が広域的・汎用的に地域の活性化に資するという実感を重ねていくことが求められる。本事業では独立行政法人国立文化財機構文化財活用センターの「ぶんかつアウトリーチプログラム」など国宝の複製を出張授業等で活用する手法を参考に、さらに当館の過去の取組実績を活かして、複製の製作過程の中にも地域のコミュニティとともに文化財を楽しむ場を創生することで、文化財複製活用の多様化を模索することを目的に据えた。

【取り組み】

①複製の造形~3D複製技術を用いた国宝神像彫刻の複製製作~

複製の造形には、3D複製技術を学ぶ県立和歌山工業高等学校産業デザイン科3Dモデリング班の生徒たちが取り組みました。先端技術の教育やものづくりの視点と、文化財との接点が生じる意義は大きく、文化財の未来を担う世代が文化的知識を得て、社会貢献につなげる手段を学ぶ効果も期待できます。

 

②複製の着色~複製製作に地域で取り組むワークショップ~

複製製作の次のステップ、下地処理や着色に、地域の小・中学生や住民が携わるワークショップを実施。地域のみんなで国宝の複製をつくりました。和歌山大学ミュージアム・ボランティアの大学生が、事前に地域の信仰を学んだり、道具の事前準備を行ったりして、サポートスタッフを務めました。小中学生18名、保護者、中学校美術教諭、敬神婦人会等、全部で40名をこえる参加がありました。

〈学校・教育現場の声〉

  • 新宮市から博物館は車で片道3時間以上、学校見学でも家庭でも、当地域の子どもたちが博物館を利用できる機会は少なく、博物館の出張イベントはありがたい。(新宮市立熊野川小学校・6年担任)
  • 国宝にふれる機会は貴重。文化財の複製にも関心をもった。(新宮市立緑丘中学校・美術担当教諭)
  • 今回のワークショップはとても貴重な体験となると思うので、生徒や保護者にも広く投げかけたい

 

③複製の奉納 ~地域コミュニティと文化財保存活動の接点~

熊野速玉大社にて、完成した神像の複製を納める奉納奉告祭を行いました。完成した複製は、境内の熊野神宝館内に安置され、公開されています。造形に取り組んだ高校生、複製彩色ワークショップの参加者、そして地域の祭事を支える住民を中心に50名以上の参列がありました。また、熊野速玉大社蔵国宝古神宝類の専門家でもある県立博物館館長が子どもたちや参列者に宝物の解説を行いました。

〈参加者の声〉

  • 自分のところの神様がこんな顔をしているなんて知らなかった。(神倉小学校・2年)
  • 文化財の色や形がこんなに細かい作業でできていることを知って驚いた。(熊野川中学校・2年)
  • 修理をする人など、文化財の仕事をする人がかっこいいと思った。(緑丘中学校・2年)

 

④複製の公開~文化財複製の多様な活用に向けて~

和歌山県立博物館の特別展(世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」登録20周年記年特別展「聖地巡礼―熊野と高野―」第Ⅳ期展示「熊野信仰の美と荘厳―熊野速玉大社の神像と古神宝―」)にて実物の国宝神像2軀の展示をおこなうのにあわせて、事業の紹介を行った。

公開動画URL:https://www.youtube.com/watch?v=oAGmfKQgM00 (和歌山県立博物館Youtubeチャンネル)

 

【実施後の成果】本事業では、熊野速玉大社国宝神像4軀の実物大複製4体および彩色テスト用の2分の1サイズの複製4体の造形が完了した。このうち実物大1体とテスト用2体が完成に至っており、その他の複製は所蔵者との協働で引き続き製作を続けている。地域との連携では、特にワークショップの開催に当たり新宮市教育委員会の協力を得て、校長会での説明や小中学校教諭への営業を行い、当該地域の子どもたちの博物館利用実態を把握できた。ワークショップでは文化財修理等にも目を向け、地域住民自身が地域の文化財を誇り、協力して継承するものであることを伝えられたと感じる。

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