「地域らしさ、みつけた!文化財と博物館の共育アプローチ」事業報告

【事業名称】「地域らしさ、みつけた!文化財と博物館の共育アプローチ」

【事業主体】和歌山県立博物館施設活性化事業実行委員会

【中核館】和歌山県立博物館

【構成団体】和歌山県立和歌山工業高等学校、国立大学法人和歌山大学

令和七年度の和歌山県立博物館施設活性化事業

 和歌山県立博物館では、県立和歌山工業高等学校や和歌山大学と連携し、文化財の複製(レプリカ)を製作、活用する取組を行っている。今年度は、文化財所蔵者との個別の関係に終始しがちな博物館の地域連携を見直し、文化財を伝える地域の人々に、より広くアプローチする試みを行った。標題の「共育」とは、こどもとおとなの相互の成長や、学校・家庭・地域が一体となって「共に育てる」ことを指す造語で、近年も厚生労働省が「共育プロジェクト」(令和七年(二〇二五)七月~)を開始するなど、広義に推進される概念である。地域コミュニティと学校との関連では、平成一六年(二〇〇四)頃から文部科学省により地域の教育力向上を掲げたコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)の立ち上げが進められ、県内でも大半の学校で導入されている。当館の事業では、こうした既存の地域共育コミュニティに働きかけ、地域が誇る文化財を主役に据えて、学校と地域と博物館をつなぐ場の創出を目指した。従来「共育」に含まれてこなかった博物館活動や文化財保存活用の観点からのアプローチとして、事業名称は、「地域らしさ、みつけた!文化財と博物館の共育アプローチ」と名付けた。

 今年度の事業の特色にいまひとつ挙げられるのが、当館と同じく博学連携で文化財の複製製作を試みる、大分県立歴史博物館との共働である。大分県では、昨年度より、県立宇佐産業科学高等学校と連携して取組を始めた。今年度の製作は、宇佐地域の歴史を特徴付ける八幡信仰を背景に造像された、八幡三神像(国東市・櫻八幡神社蔵、大分県指定文化財)を対象とする。一方、当県では、高野山麓の文化圏に伝わる丹生・高野明神像(有田川町・田殿丹生神社蔵、女神坐像・男神坐像その二)を製作のテーマとした。事業名称に「地域らしさ、みつけた!」の語を掲げたのは、例えば離れた地域の生徒同士が双方の活動を伝え合うなかで、自身の住む地域の歴史や文化を深く理解し、発信する知識を体得して欲しいとの考えを込めてのことである。

博学連携で取り組む文化財複製製作の課題と展望

 複製の製作には3D複製技術を用い、3Dプリンタに関する実習を行う学校との博学連携で取り組んでいる。造形された複製は、博物館におけるユニバ―サルデザインの一手段となる「さわれるレプリカ」や、過疎化・高齢化に伴って急増した仏像盗難被害への対策とする「お身代わり仏像/神像」として活用しており、平成二二年(二〇一〇)度から、博学連携で地域課題に向き合う取組として文化庁の博物館支援事業の補助を受け、同様の課題をもつ全国の博物館や地域への、事業モデルの普及を目指してきた。製作方法等の詳細は『お身代わり仏像製作記録集2022』(和歌山県立博物館、二〇二三年)を参照されたいが(全文PDF:https://hakubutu.wakayama.jp/information/replicaprojectlog/)、実際に、こうして公開した当県でのノウハウをもとにこの事業モデルが実践されるに至り、技術的な課題や、博学連携ゆえに発生する問題がみえてきた。

 大分県立博物館との共働では、宇佐産業科学高等学校電子機械科(以下、宇佐産高と略称)の生徒と和歌山工業高等学校産業デザイン科(以下、和工高と略称)の生徒が互いの製作について発表する「博学連携による文化財複製づくり技術交流会」(一二月一九日、オンライン)、この事業モデルの紹介や展望を語るシンポジウム「和歌山県博×大分県博 文化財レプリカでもっとつながる博物館・学校・地域」(一月三一日、於大分県立歴史博物館)を開催した。

 使用機材や技術的な工夫、材料や費用など、交わされた情報の内容は多岐にわたったが、両県の生徒・教諭が最も懸念を示したのは、生徒の代替りや教諭の異動によるノウハウ継承の難しさであった。和工高では、今年度の教諭の変更による試行錯誤があり、その過程で挑戦した二つの手法の3Dデータ作成について発表した。宇佐産高では、早くから次年度への引き継ぎの問題に着手しており、製作中に感じた難点やマニュアルづくりの計画も発表に組み込んだ。

 宇佐産高は、シンポジウムでも事例報告を行い、同じ3Dプリンタを所有する県内の他の高等学校でも、地域の文化財の複製が製作できる状況を目指すという展望を示した。シンポジウムでは他に、和歌山県立博物館学芸員時代にこの取組を始めた大河内智之氏の基調講演、講演・報告を踏まえた各館担当学芸員と大河内氏三者のディスカッションを行った。宇佐産高の生徒たちが示した展望は、博物館の地域連携においても目指すべき形であり、ディスカッションでは、この事業モデルを通じて如何に多くの人を当事者としてつないでいくかが議論の中心となった。

文化財複製製作のワークショップで生まれる博物館・学校・地域の共育

 複製の製作には、3D複製技術を用いる造形の他に、積層痕の除去(やすりがけ)、下地処理(ジェッソの塗布)、アクリル絵具での着色がある。脆弱な実物資料の取り扱いと違い、実物が破損するリスクなく、地域に出張できるという文化財複製の特性を活かして、右の工程を対象文化財が伝来する地域の人々とともに仕上げていくワークショップを行った。大分県では「国東小学校文化財ワークショップ」(一〇月一七日)、当県では「田殿丹生神社ご神像 文化財のレプリカワークショップ」(一月二五日)を開催した。

 当県のワークショップは、有田川町の田殿公民館にて実施した。参加者の募集にあたっては、吉備地区の小学校三校・中学校一校・高等学校一校に、申込用のQRコードを掲載したチラシ一八〇〇部の全校配布を依頼した。田殿小学校四名、御霊小学校二名、藤並小学校四名、その他児童五名、おとな一五名の申込があり、当日は関係者を含め約五〇名が参集した。神像の紹介や複製製作工程の説明を担当したのは、和工高の生徒たちである。また、和歌山大学ミュージアム・ボランティアの学生が体験のスタッフを務めた。

 参加者からは、神像の虫損に衝撃を受けたことや、そうした難を乗り越えて一〇〇〇年もの間、神像が伝えられてきたことへの驚き、田殿丹生神社宮司の口から語られた文化財保存継承への志や高校生・大学生が熱心に和歌山の文化財を研究し発表する様子への感銘、といった感想が寄せられた。参加した生徒・学生たちが、自身の発見や学んだ成果を地域の人々に直接伝え、それを受けた地域のこどもとおとなもまた新たな文化財との出会いを果たす、まさしく文化財を主役に据えた共育の場を創出することができた。

 ワークショップ形式の文化財複製の活用は、他地域や他の文化財を対象とした場合でも実施できる、汎用性の高い活動手法である。地域や学校を巻き込む、博物館からの有効なアプローチのあり方として、今後も継続していきたいと考えている。

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