今回の「ハンコの基礎知識」は、ハンコの周囲のかざりについて見ていきたいと思います。
ハンコの周囲には、輪郭のような「わく」があるものがあります。とくに、陽文のハンコは、文字の周囲をへこませるため、通常、ハンコの周囲の輪郭を飛び出させて「わく」とします。この「わく」を「郭(かく)」と呼びます。
野呂介于使用印「隆忠」(陽文楕円印)
「郭」には、かざりがつけられることがありました。
最も簡単なかざりは、「郭」をもう一本増やす「重郭(じゅうかく)」です。
「恕家康」(陽文重郭楕円印)
「霞洞」(陽文重郭方印)
また、陽文のハンコだけではなく、陰文のハンコでも、周囲にもう一本のへこんだ線をめぐらせると、「重郭」のハンコとなります。
「楽」(陰文重郭円印)
「永楽」(陰文重郭円印)
「清寧」(陰文重郭円印)
一方、先日紹介した紀伊藩10代藩主の徳川治宝(とくがわはるとみ、)が描いた竜の絵に押されたハンコのように、「郭」の中に、竜の文様をあらわしたものもありました。
「楽只」(陽文陰竜郭方印)
また、「郭」の中に葵(あおい)という植物の文様をあらわした次のようなハンコもあります。
「南葵文庫」(陽文装飾郭方印)
このハンコは、紀州徳川家の所蔵品や蔵書に押された「南葵文庫(なんきぶんこ)」のハンコです。
南葵文庫については、
コラム 新収蔵品展(2) 机と椅子の大正ロマン―南葵文庫と喜多村進―や
南葵文庫旧館の歩み―旧南葵文庫「ヴィラ・デル・ソル」を訪ねて―をご参照ください。
このハンコの郭の装飾には、徳川家の家紋である葵(あおい)の葉とともに、左→右→上→下の順に「紀」「伊」「徳」「川」という文字があらわされています。よく見て、探してみてください。
ハンコの輪郭だけを見てみても、興味深いですね。
ハンコの名前や呼び方は複雑ですが、こうして楽しみながら、一つ一つのハンコを見てみると、少しはわかりやすく感じられるかもしれません。ちなみに、今回で、ハンコの難しい名前については、だいたいの説明ができたのではないかと思います。
今後も、ハンコのいろいろな部分に注目して、ハンコの基礎知識で紹介していきたいと思いますので、ご期待ください。(学芸員 安永拓世)
→企画展 ハンコって何?
→和歌山県立博物館ウェブサイト