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「きのくに神秘の仮面-新発見の神像とともに-」展示の見どころ(注目資料の紹介)

和歌山県立博物館企画展「きのくに神秘の仮面-新発見の神像とともに-」(2020年2月1日~3月8日)
【展示の見どころ】
【作者が分かる新発見の仮面を初公開!】
 高野山の奥、かつらぎ町花園久木の久木丹生神社から昨年発見された「尉」と「若い女」の面です。尉の面裏に「真徳院作」との刻銘がありその制作者が判明します。作者の真徳院は、九度山町・古沢厳島神社の「悪尉」の面裏の墨書に「慶長拾五天甲戌十月二日/高野山/南谷/真徳院/作之/古佐布/庄中コレヲキシン(後略)」と記され、慶長15年(1610)に高野山麓で仮面制作を行っている事例を確認できます。久木丹生神社の2面も室町時代末~桃山時代の作と見られますが、細面にあらわした尉の顔は、実際の制作時期よりもさらに古い時期の特徴を示し、作者の真徳院は古風なスタイルを長く踏襲した高野山に住む面打(めんうち・仮面作者)であったようです。、高野山霊宝館から近時発見された真徳院作の中将も、写真パネルにて紹介します。
尉(久木丹生神社) 久木丹生神社尉の面裏刻銘 若い女(久木丹生神社)
左:尉(久木丹生神社蔵) 中:尉の面裏と「真徳院作」刻銘 右:若い女(久木丹生神社蔵)
【新発見の華麗な神像を初公開!】
 高野山のさらに奥、高野町大滝地区の大滝丹生神社の社殿に安置され、昨年、博物館と高野町教育委員会の合同調査で新たに発見された、鎌倉~南北朝時代、14世紀に制作時期がさかのぼる丹生高野両明神像です。ともに白い肌で頬に紅を差した若々しい風貌は神を描いた絵画に見られるもので、彫刻では珍しいものです。また後屏(こうびょう・背後に立てかけた屏風状の板)に絵巻物から切り抜いたような山水の美しい景観を描く事例は他に類を見ないものです。高野山周辺において、これまでに把握されている神像の中で最も華麗な作例です。
 大滝地区周辺は鎌倉~南北朝時代に、高野山と吉野蔵王堂との間の領域争いとして係争を続けた地で、高野山にとっての重要地域であったがゆえに、この一対のように優れた出来映えを示す神像が、高野山権力の関わりのもと安置されたとみられます。
高野明神坐像(大滝丹生神社) 丹生明神坐像(大滝丹生神社)
左:高野明神坐像(大滝丹生神社蔵) 右:丹生明神坐像(大滝丹生神社蔵)
高野明神後屏 丹生明神後屏
左:高野明神坐像の後屏(こうびょう) 右:丹生明神坐像の後屏
【自然化学分析により別々に所蔵される仮面が一具のものと判明!】
 九度山町の勝利寺(慈尊院保管)に所蔵される翁(写真左上)と延命冠者(同右下)、そしてかつらぎ町の上花園神社に所蔵される黒色尉(同右上)と父尉(同左下)の4面は、別々の所蔵者のもとに伝わってきた仮面ですがそれぞれ作風が共通し、材質(桐)も一致していることから、博物館ではこれまでにも、本来は一具のものであった可能性を示し、展示公開してきました。
 今回、企画展の事前調査で、表面の彩色をハンドヘルド蛍光X線分析器による定性分析を行ったところ(協力西山要一奈良大学名誉教授)、下地に塗られた白土や顔料の組成構成が微量元素も含めて各面とも近い傾向を持つことを確認でき、推定を裏付けることができました。現在は途絶えてしまった古式の翁の舞で使用された、一具同作の室町時代の翁系面4面が残存する、全国でも稀少な事例ということができます。
慈尊院・上花園神社仮面の翁・黒色尉・父尉・延命冠者
左上:翁(勝利寺蔵・慈尊院保管) 右上:黒色尉(上花園神社蔵)
左下:父尉(上花園神社蔵)     右下:延命冠者(勝利寺蔵・慈尊院保管)
【高野山麓の来迎会で使われた仮面】
 阿弥陀如来と菩薩、持幡童、僧からなる群像が極楽浄土より来迎して人々の前に現れる様子を再現する来迎会(迎講・お練り供養)で使われた仮面です。高野山麓、花園荘の鎮守社である上花園神社に伝来しました。『紀伊続風土記』に、「古、社前にてレンジの舞といふを奏せし」とあります。レンジはレンゾの誤りで、練道、すなわち来迎会のことです。それぞれふくよかで張りがあって生気にあふれ、鎌倉時代後期の仏像と通じる表現を見せています。幡や天蓋を手にして神仏に付き従う聖なる童子ある持幡童のリアルで神秘的な風貌は、日本の仮面史上においても特筆される魅力に溢れています。仮面を納める箱の蓋に後世の筆ですが文保元年(1317)の年紀が写されており、このころの制作とみられます。なお上花園神社では、これら仮面のほか、来迎会でともに使用されたと考えられる同時期に制作された龍頭形竿頭飾が近年新たに見つかっており、今回初公開します。
如来面(上花園神社) 菩薩面(上花園神社) 持幡童(上花園神社)
左:如来(上花園神社蔵) 中:菩薩(上花園神社蔵) 右:持幡童(上花園神社蔵)
龍頭形竿頭飾 上花園神社
龍頭形竿頭飾(上花園神社蔵)
【ユーモラスで魅力的な獅子・狛犬、初公開!】
 九度山町丹生川地区の産土社である丹生川丹生神社の社殿内に納められてきた、室町時代に作られた獅子(開口)と角のある狛犬(閉口)です。両像ともに全身を一木より彫り出しています。すらりと丈の高い優美な体軀と対照的に、ほのぼのと威嚇するユーモラスな風貌が相まって独特の個性を示しています。昨年12月、防犯のために初めて社外に出て、現在は県立博物館で保管しています。地域に密着した祈りの場では、獰猛で威嚇するような表現よりも、人々の身近にあって愛されるような獅子・狛犬が求められたのかもしれません。
狛犬頭部(丹生川丹生神社) (2) 狛犬頭部(丹生川丹生神社) (1)
左:獅子・狛犬(丹生川丹生神社) 右:狛犬頭部

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