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コラム 熊野信仰とは何か(上)

熊野信仰とは何か(上)
 紀伊半島の南東部、熊野地域に、本宮・新宮・那智山の三つの聖地があり、熊野三山と呼ばれている。実はこの熊野三山という枠組みは、平安時代中期、11世紀の初めごろに形成されたもので、それ以前はそれぞれ独自の神祀りの場として成立していた。
 熊野川の上流、川の中洲には本宮が、河口部には新宮があり、那智山には落差一三三mの那智滝があって、それぞれの信仰の場は水との関連が深い。このうち、新宮・熊野速玉大社には、平安時代前期、9世紀後半から10世紀初頭ごろに造像された国宝の神像4躯が残される。従来熊野三所権現として祭祀されてきたこの神像は、熊野三山の成立より以前に造像されており、祀られた当初は別の神であったと考えられる。
 主神である熊野速玉大神坐像は、顎髭をたくわえ、眉根をよせて奥歯を噛みしめた厳しい表情を見せる。それと対になるのが、豊満で艶麗な女神、夫須美大神坐像。この二人を夫婦と捉えると、その二人の子に相当するのが、熊野速玉大神像とよく似た表情の国常立命坐像。すなわちこの神像はもともと父母と子というまとまりを持ち、それは熊野川河口部を治めていた古代の豪族の祖先の神として造像されたと考えられる。この神々が「熊野三所権現」に変身するのは、まだしばらく先のことである。(学芸員 大河内智之)
速玉大神像 熊野速玉大社所蔵の熊野速玉大神坐像(国宝)
世界遺産登録5周年記念特別展 熊野三山の至宝―熊野信仰の祈りのかたち―
熊野三山の至宝展あれこれ
和歌山県立博物館ウェブサイト

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