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コラム 画材道具(桑山玉洲所用)

9月に入り、夏休みも終わってしまいました。
和歌山県立博物館では、明日から、「西行と明恵」という新しい企画展が始まります。
その前に、夏休み企画展「のぞいてみよう!えのぐばこ」(7/22~9/3)のご報告を、
展示資料をいくつかピックアップして、コラムの形で記します。
 「のぞいてみよう!えのぐばこ」は、こんな思いがあって企画しました。展覧会のごあいさつを引用します。
「教科書やテレビ、展覧会で、わたしたちは、「完成した」作品を見ています。でも、どんな道具で、どうやって描いたんだろう?
 そんな疑問に答えてくれるのが、江戸時代の和歌山で活躍した二人の画家、真砂幽泉(1770~1835)と桑山玉洲(1746~99)のえのぐばこ。この夏休み企画展では、二人の画家のえのぐばこと、お手本や下描き、しあげにおしたハンコなどを展示し、完成作品の背景にある、画家たちのこだわりや、絵の練習のようすを、のぞいてみたいと思います。むかしの画家たちの生き生きとしたすがたを、身近に感じていただければ幸いです。」
展覧会に行けなかった!という方は、コラムをご覧になって、雰囲気を感じていただければと思います。
はじめにご紹介する資料はこちらです。
画材道具類(桑山玉洲所用) 個人蔵
画材道具 桑山玉洲所用(がざいどうぐ くわやまぎょくしゅうしょよう) 一式。
江戸時代(18~19世紀)
個人蔵
 桑山玉洲(くわやま・ぎょくしゅう)という、江戸時代(18世紀)に活躍した画家が使っていた絵具箱です。
玉洲の絵具箱は、他にもう1つ例が知られています。
 桑山玉洲さんは、江戸時代の和歌山(今の和歌山市)で活躍した画家です。
今から約270年前に生まれ、次のコラムで紹介する真砂幽泉よりも20歳ほど年上です。
 玉洲の家は、船で品物を運ぶ「廻船業」や、お金の両替をする商売をしていました。
20代のころには江戸(今の東京)へ行き、有名な絵の先生たちを訪ねました。
ですが、先生たちの絵に満足できなかった玉洲は、自分で絵の勉強を始めました。
友達と交流したり、あこがれの中国の絵を集めたりして、新しい絵の描き方を目指したようです。
 さて、この画材道具は桑山家の分家に伝わったもので、絵具を小分けにできる入れ物や、
方位磁針が入っており、屋外での制作時に使ったのかもしれません。
こちらの旧家には、玉洲の作品とともに、玉洲が集めた書画や使った道具がまとまって遺っています。
2013年に当館で開催した特別展「桑山玉洲のアトリエ」展で全貌が展示されたのも、記憶に新しいのではないでしょうか。
江戸時代の画家が集め使った道具や作品が、まとまって残る例はきわめて貴重です。
 玉洲の絵具箱には、「朱」や「丹」、「臙脂」など赤色系、「群青」など青色系、「白緑」など緑系、
白い「胡粉」に、輝く「金泥」など、たくさんの絵具が入っています。
カラフルできれいな色づかいが得意な玉洲。
展覧会では、次のような作品を展示し、玉洲の色づかいをご覧いただきました。
渡水羅漢図 桑山玉洲筆 館蔵
(渡水羅漢図 桑山玉洲筆 和歌山県立博物館蔵)
 大きな松の木の下で、川を渡る、大勢の羅漢を描いています。羅漢とは、仏教の、特に優れた僧侶のことです。山は鮮やかな青や緑色、川は薄い藍色。羅漢の服は、赤、青、白、緑、桃色、茶色など、さまざまな色が塗ってあります。いくつの色を見つけられるでしょうか。
富岳図 桑山玉洲筆 個人蔵
(富岳図 桑山玉洲筆 個人蔵)
 富士山が見えています。その前には松の林と川、そして家々。地面は、幅の広い筆を横に動かして描いています。墨の割合が多いなか、空や地面に朱色が入り、明け方か、夕方の景色のようです。よく見ると、緑や臙脂色の点で、草や花が描かれています。
コラムはいくつか続きます。
(学芸員 袴田)

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