企画展「江戸時代の紀州の画家たち」の関連コラム
「紀州の画家紹介」
31回目にご紹介するのは、岡本緑邨(おかもとろくそん)です。
岡本緑邨(おかもと・ろくそん)
◆生 年:文化8年(1811)
◆没 年:明治14年(1881)12月
◆享 年:71歳
◆家 系:未詳
◆出身地:紀伊
◆活躍地:紀伊
◆師 匠:未詳
◆門 人:未詳
◆流 派:文人画・諸派
◆画 題:花鳥・山水
◆別 名:邦直・子温・季温など
◆経 歴:画家。未詳な点も多いが、紀州出身の画家とされる。幕末から明治にかけて活躍し、紀伊藩士で文人画家の野呂介石(のろかいせき、1747~1828)風の山水から、より濃密な中国風の青緑山水(せいりょくさんすい)、さらには名古屋出身で京都でも活躍した文人画家の山本梅逸(やまもとばいいつ、1783~1856)風の花鳥まで、その画域はきわめて広い。こうした画域の広さや器用さは、介石の高弟で、後に紀伊藩のお抱え絵師となった野際白雪(のぎわはくせつ、1773~1849)などと近く、あるいは何らかの影響を受けたのかもしれない。ただ、経歴や出身が未詳であるものの、紀州各地には緑邨の作例が数多く現存し、おそらくは、各地の名家などを訪れては、そこに滞在して絵を描いたとみられる。幕末期の多様な紀州画壇の状況をよく示す画家ともいえる。
◆代表作:「花卉図(かきず)」(個人蔵)弘化3年(1846)、「密柑山図(みかんやまず)」(和歌山県立博物館蔵)文久元年(1861)など
今回展示しているのは、「花鳥図衝立」(個人蔵)です。
(以下、いずれも画像をクリックすると拡大します)
款記は「緑邨桑者写」で、印章は「邦直之印」(白文長方印)、「季温」(朱文方印)です。
この絵は、先にご紹介した鈴木景福筆「花鳥図衝立」の裏面に貼られている絵で、月、木蓮(もくれん)、山茶花(さざんか)、竹、石を描いたものとみられます。
衝立としては、先にに鈴木景福の絵が描かれ、緑邨の絵は、後から裏に貼られたものでしょう。
鈴木景福は、先にご紹介したように、事績についてはある程度わかっていますが、作例はほとんど知られていなかった画家です。一方、この岡本緑邨は、紀州の旧家の所蔵品などを調査していると、必ずといってよいほど作例が出てくる画家ですが、その出身や経歴などのくわしい事績についてはよくわかっていません。
事績がわかっても作例のきわめて少ない景福と、作例は多く残っていても事績がよくわからない緑邨。こうした対照的な画家の作品が、この衝立の表裏になっているのも、興味深い組み合わせといえるでしょう。(学芸員 安永拓世)
→江戸時代の紀州の画家たち
→和歌山県立博物館ウェブサイト