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スポット展示「江戸に住む紀伊藩の女性たち」

 県立博物館では、博物館の所蔵品を、より多くのみなさまに、広く知っていただきたいという目的から、
2階に「スポット展示」というコーナーを設け、館蔵品を数点取り上げた展示を行っています。
このスポット展示は、無料でご覧いただけます。
 今年度は「ちょっとだけ《江戸時代》を知ろう」と題して、
城下町和歌山の様子がわかる資料、
藩主であった紀伊徳川家やその家臣たちにかかわる資料などから、
270年ほど続いた「江戸時代」、江戸(東京)に政治の中心となる幕府が置かれた時代を紹介します。
 スポット展示は、約1か月から2か月ごとに、展示替えをおこないます。

 昨年(2010年)の5月からスタートした「スポット展示」については→こちらをご参照ください。

19回目を迎えた今回のテーマは
江戸に住む紀伊藩の女性たち
【会期:1月21日(土)~3月2日(金)】

 今回は、江戸に住んだ種姫(たねひめ、10代藩主治宝<はるとみ>の夫人)、
実成院(じっせいいん、10代藩主治宝の側室)、豊姫(とよひめ、10代藩主治宝の娘)
にかかわる資料を展示しました。

120展示風景(432KB)(画像をクリックすると拡大します)

 江戸には、紀伊藩の屋敷が16か所ありました。
このうち、歴代の紀伊藩主が江戸に参勤した際滞在するのは、
上屋敷(麹町邸、赤坂プリンスホテル跡附近)と中屋敷(赤坂邸、現在の赤坂御用地)でした。
 寛永9年(1632)に拝領した中屋敷には、
赤坂御殿・青山御殿・山屋敷などの建物、中央には庭園がありました。
赤坂御殿はたびたび火災に遭いましたが、その都度再建されています。
使用目的によって、赤坂御殿は表・奥・大奥の三つに分かれており、表は藩の政庁、奥は藩主の公邸、
大奥は藩主夫人や側室、彼女たちに仕える女中たちが生活する場でした。

  以下は、展示資料の解説です。

羽子板(徳川豊姫所用)
 (はごいた とくがわとよひめしょよう)

羽子板(表)(画像をクリックすると拡大します)
   1握
   板面金箔著色
   19世紀
   縦42.0㎝ 横14.9㎝

 紀伊藩10代藩主治宝(はるとみ)の娘で、
11代藩主斉順(なりゆき)の正室となった豊姫(1800~1845)が愛用した羽子板です。
豊姫は和歌山で生まれましたが、5歳で江戸に下向し、
藩主の正室となったことから、亡くなるまで江戸に住みました。
 この羽子板は、表裏とも胡粉(ごふん)で盛り上げた上に金箔(きんぱく)を貼っており、
遊戯具よりも縁起物・飾り物としての性格が強いものです。
表に貴人の家族が遊ぶ様子、
裏に小正月の火祭行事(厄払、やくばらい)の一つ・左義長(さぎちょう)を極彩色で描いています。
また表裏とも、余白の亀甲(きっこう)文様の中に葵紋(あおいもん)を置き、
握りの部分には紅染(べにぞ)めの綾(あや)を巻いています。
栄恭院(えいきょういん、豊姫実母・於佐衛<おさえ>)から頂戴(ちょうだい)したとの書付が残っています。

紀伊藩江戸屋敷奥向日記
 (きいはんえどやしきおくむきにっき)

奥向日記(9月5日条)(画像をクリックすると拡大します)
   1冊
   紙本墨書
   天保14年(1843)
   縦30.1㎝ 横21.5㎝

 江戸にあった紀伊藩江戸屋敷(中屋敷)の大奥に仕えた女中たちが、
大奥での実務を記した日記のうちの1冊です。
この日記には、天保14年9月・閏9月・10月
(西暦に換算すると、1843年の9月下旬から11月下旬までにあたる)
の3か月の内容が記されています。
 大奥には、正室であった豊姫(10代藩主治宝の娘)や側室たちがいました。
8月28日には、側室である、みさ(実成院、1821~1903)が
伊曾姫(いそひめ、1843~1844)を出産しており、
祝いの使者や祝品の内容などが詳細に記されています。
実成院は、3年後にのちに13代藩主となり、
14代将軍となった慶福(よしとみ、家茂<いえもち>)も産んでいます。

種姫婚礼行列図
 (たねひめこんれいぎょうれつず)

種姫婚礼行列図 (200KB)(画像をクリックすると拡大します)
   1巻
   紙本白描
   文政2年(1819)
   縦23.5㎝ 横1452.8㎝ 

 種姫(1765~1794)は、御三卿(ごさんきょう)の1つ
田安(たやす)家の祖・田安宗武(むねたけ)の娘で、江戸で生まれました。
江戸幕府10代将軍家治(いえはる)の養女となり、
天明2年(1782)に紀伊藩10代藩主治宝と縁組みをして、
同7年紀伊藩の江戸屋敷に輿入(こしい)れをしています。
 この絵巻は、婚礼行列を描いた白描(はくびょう)の写本で、
東京国立博物館には狩野(山本)養和筆の同じ行列を描いたものがあります。
種姫の乗った輿の前後で護衛する武士(御徒衆<おかちしゅう>)は、
それぞれの表情や姿勢に変化をつけて描かれ、役職名と名前が記されています。
数は輿の前が30人、後ろが60人であったようです。
奥書(おくがき)には、文政2年在原保明が清水秋明から原本を借用して写したとあります。

 このような解説とともに、資料が展示されています。
 博物館の2階は、どなたでも無料でご覧いただけます。
折々、博物館の2階を訪れて、ひと昔前の〝江戸時代〟を感じてみてはいかがでしょうか。

 江戸(東京)には、紀州ゆかりの場所がいくつかあるようです。
一度調べられて、訪ねてみたらいかがでしょうか
 今回のスポット展示は、3月2日(金)までです。

  次回からは担当者が代わります。
来年度も、「スポット展示」をよろしくお願いい
たします。
  (主任学芸員 前田正明)

→和歌山県立博物館ウェブサイト
→これまでのスポット展示

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