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下湯川観音堂に3Dプリンター製お身代わり仏像を奉納しました(平成29年7月28日)

 和歌山県立博物館では、和歌山県立和歌山工業高等学校の協力を得て、3Dプリンターを用いた文化財の精巧な複製を制作し、文化財の防犯対策を行っています。これは高齢化や人口減少などの要因により、管理や保全が困難になっている地域の寺社等にある文化財を博物館等で保管し、かつ、信仰されてきた環境も従来通り維持するための取り組みで、平成24年度から28年度までの5年間に、県内10か所の寺社に21体の複製を安置してきました。
 このたび、11か所目(22体目)となる、有田川町下湯川の下湯川観音堂に観音菩薩立像を奉納いたしました。仏像の計測、データ修正を県立和歌山工業高等学校産業デザイン科の生徒7名が担当し、高校所蔵の3Dプリンターで出力後、部品の接着、表面研磨、下地作りを博物館職員が行い、アクリル絵の具による着色作業を和歌山大学教育学部美術教育専攻の学生が行いました。
下湯川観音堂観音菩薩(左実物、右レプリカ)
(左:実物 右:複製)
 この仏像は下湯川観音堂の本尊像で、像高69.3㎝、髻を結って天冠台をあらわし、条帛、裙、天衣をまとって、左手を屈し右手を垂下しています。頭体及び右手前膊、左手上膊までと天衣遊離部も含め一木から彫り出して、頭部では頰が豊かに膨らみ、体部も抑揚を強調しない穏健な肉取りで、平安時代後期の仏像様式に基づいた、12世紀ごろの作例と考えられます。
 本年(平成29年)1月21日から3月5日の会期で開催した企画展「有田川中流域の仏教文化-重要文化財・安楽寺多宝小塔修理完成記念-」の事前調査で初めて同堂の調査を行ったところ、本像をはじめ、平安時代中~後期の仏像ほか古代・中世の資料が多数確認されました。
 本尊像以外は先の企画展で展示・公開することとなりましたが、極めて重要な資料群であり、また過疎化・高齢化の進んだ地域であることから、無住の観音堂で今後これらの資料をいかに管理していくかについて会期中に地域住民の方々と検討しました。結果、会期終了後は博物館で寄託を受け保管することとなり、改めて本尊像も借用するとともに、地域の信仰環境を維持するため、お身代わりの仏像を安置することとなったのです。
 7月28日(金)10時30分、有田川町の山中、有田川の支流・湯川川流域に位置する下湯川地区に高校生6名と大学生1名が到着。区長さん、お世話役の方、町の教育長らが迎えてくれる中、観音像は高校生が抱きかかえ、観音堂へと続く坂を登ります。
下湯川観音堂奉納 (5)
 観音堂には、堂守さん、下湯川の住民の方々がお待ちになっており、改めて今回の経緯をご説明し、工業高校の児玉先生に生徒の紹介を行ってもらったのち、生徒代表から堂守さんに「お身代わり」の仏像が手渡されました。
下湯川観音堂奉納 (1)
 観音像を観音堂の厨子の中に納め、区長さんが導師役となって、地域の皆さんで般若心経3巻が唱えられました。読経の後、拝んでいる地域の方が「お帰りなさい」とつぶやかれたのを聞いて、高校生・大学生が頑張って作ってくれた仏像が、無事に観音堂の本尊として迎え入れられたのだと、一安心しました。
下湯川観音堂奉納 (4)
下湯川観音堂奉納 (2)
 読経の後は、地域の方が用意してくれたわさび寿司(鯖寿司をわさびの葉で巻いたもの)をいただき、記念撮影のち帰途につきました。
下湯川観音堂奉納 (3)
 今回の「お身代わり」仏像の奉納は、作製した生徒・学生が地域の方々と交流を行うことで学びをより充実したものとするとともに、地域の方々が「お身代わり仏像」を身近に感じていただく機会となるよう行ったものです。心温まるふれあいに接して、その目的を達することができたものと感じています。今後も博物館では、大切な文化財を継承するための取り組みを続けて参りたいと思います。(主査学芸員 大河内智之)

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