2010年12月12日、企画展「『文化財』の基礎知識―緊急アピール・文化財の盗難多発中!」の関連イベントとして、「和歌山大学学生が作製した新編道成寺縁起発表会」を開催いたしました。
この新編道成寺縁起作りの経緯と経過については、これまでに5回に渡って報告してきました。
→新編道成寺縁起作りのこれまで
1000年にわたって語り継がれてきた道成寺縁起に学び、それを本歌としながら、現代的な課題を取り上げて新編道成寺縁起を作るというプロジェクトです。
いよいよ本番当日。12時に出演者全てが集まり、まずは開場のぎりぎりまでかけてリハーサルを行いました。どうしても準備の足りなかったところに直前とはいえ気付くことができ、各班ごとに指示。会場設営の足りない所なども、急遽機材を入れたりして対応。
13:30、開演です。出演者も含めて約90人のお客様がご参加下さいました。
まず最初に、千年祭本とよばれる、昭和初期以前に成立した道成寺縁起の台本を、道成寺本の道成寺縁起(重文)の画像にのせて、学生さんたちが披露。続けて、道成寺縁起を卒業論文で取り上げている4年生が、「道成寺縁起の変遷と意義」と題してミニレクチャー。
道成寺縁起の物語の中でも、やはり清姫が自らの暴走する思いにとらわれて、蛇に変身してしまうというシーンが、とても強く印象に残ります。今回新たに作成した4編の縁起は、この蛇への変身を物語に取り入れています。そしてもともとの道成寺縁起における物語の最後は、法華経の功徳による救済と成仏という、実はハッピーエンドで物語られていますので、それぞれの新しい物語もハッピーエンドになるように、作っています。
いよいよ、新編道成寺縁起のお披露目。道成寺縁起2010生命編、恋愛編、環境編、学校生活編の順です。開場では、紙芝居形式で作成した絵をビデオで撮影してプロジェクターで投影して、ご来場のみなさんに見てもらいました。
それぞれの物語の概要は、生命編では、地震に巻き込まれた青年の、生きたいという強い思いが蛇へと変化し、みんなを救い、仲間とのきずなを深めたという物語、恋愛編では実は蛇男であるというコンプレックスを隠し続けた青年が、パートナーの彼女の大きな愛でそのコンプレックスごと包まれるという物語、環境編では見さかいのない環境破壊に対して、蛇へと変化して告発する自然からの強い警告をもとに、人々が共生のありかたに気づくという物語、学校生活編では、理不尽ないじめにより、いじめられた子が怒りのあまり蛇へと変化し、それに飲み込まれたいじめた子がいじめられた子の悲しみを共感し、問題が解決するという物語でした。
現代社会が持つさまざまな課題を物語のかたちに再構築し、そこに必ずハッピーエンドを盛り込むことで、未来に希望を見いだすきっかけの一つにになったのではないかと思います。物語には、そうした力があるのではないでしょうか。
今回発表した物語は、道成寺縁起という、まさしく1000年間語り継がれてきた物語に学んで作られました。そうした歴史や資料、文化財を、単に昔のものだと過去におしやるのではなく、現代の生活のなかにいかに活かしていくことができるのか、今回の発表会はそういう試みでもありました。
文化財の盗難が頻発している現状の中、地域の歴史や文化財を身近に感じ、その魅力に気付いて興味・関心をもつなかで、文化財を守ることの意味も明確になるのではないでしょうか。博物館では、昨年も和歌山大学との協力で、那智参詣曼荼羅の現代版絵解きを作成してお披露目しました。こうした文化財を現代に生かし、また関わってくれた方達が地域の歴史を再認識していただく機会を、これからも作って行きたいと思います。
出演して頂いた和歌山大学教育学部のみなさん、お疲れ様でした。ご参加頂きましたお客様、ありがとうございました。(学芸員 大河内智之)