今回の展示では道ごとの展示を行っているため、離れたところにある作品はその関連性がわかりづらいのですが、大辺路と伊勢路の展示コーナーでそれぞれに関連する作品2点を紹介したいと思います。
すさみ町指定文化財 阿弥陀三尊像(持宝寺蔵)
一つは大辺路沿いにある持宝寺の阿弥陀三尊像【展示番号71】です。持宝寺はすさみ町周参見に位置する臨済宗寺院です。この阿弥陀三尊像は、平成26年(2014)に修理が行われ、像内に墨書があり、造立された年、願主、仏師などの名前がわかりました。中尊の阿弥陀如来立像は延元元年(1336)大願主快尊、仏師浄慶により造られたことがわかります。脇侍の観音菩薩立像は建武4年(1337)大願主快尊、仏師浄慶により造られたことがわかります。延元という南朝年号、建武という北朝年号が一年違いで使われていることも興味深い(謎な)のですが、ここでは仏師の浄慶に注目していただきたいと思います。
三重県指定文化財 薬師如来坐像(真巌寺蔵)
実は仏師浄慶が造った仏像は、三重県尾鷲市にも残されているのです。尾鷲市真巌寺に本尊として祀られる薬師如来坐像【展示番号95】にも膝裏に墨書があり、嘉暦4年(1329)に仏師浄慶によって造られたことがわかります。おでこの髪の生え際が緩やかなV字にあらわされていること、頰が丸く張った顔の輪郭、ふくよかなか体の表現などに浄慶の特徴が見られます。紀伊半島の東と西をまたにかけて、熊野で活動していた仏師が存在したことを知っていただけたらと思います。
当館では初めて二つのお像をあわせて展示させていただくことができました。展示室では少し離れた場所で紹介していますが、是非、両像を見比べて、熊野という地域に根ざして活動した仏師浄慶の作風を確認していただけたらと思います。なお、これらの仏像と仏師浄慶については、『和歌山県立博物館研究紀要』第24号(2018年)に大河内智之氏による論考「延元元年・建武四年銘持宝寺阿弥陀三尊像と熊野仏師浄慶」が掲載されています。ご関心のあるかたは、こちらの論文も参考にしていただけたらと思います。