□■虫・カビから資料を守る■□
和歌山県立博物館では、平成22年4月24日(土)?6月6日(日)の会期で、特別展「移動する仏像―有田川町の重要文化財を中心に―」を開催します。この日誌では、その途中経過をお知らせしながら、博物館の業務についてご紹介しています。
3月13日(土)。昨日借用し、集荷した資料を県立博物館の収蔵庫に納めるにあたって、事前の燻蒸作業を本日より開始しました。置かれていた環境によって異なりますが、資料にはカビや虫など保存上悪影響を及ぼす要因が付着している可能性が高く、それらの処置をしないまま博物館内で保管・展示を行うと、館内や収蔵庫内の保存環境を損ねてしまいます。日常的には、館内全体をIPM(総合的病害虫管理)と呼ばれる調査や点検、清掃作業を行ったり、空気環境を測定するなどして、資料を劣化させない環境を維持しているのですが、外から持ち込んだ資料については、必要に応じて殺虫・殺菌の処置を施します。現在燻蒸に用いる薬剤は酸化エチレンとHFC134aの混合剤。人体に害がありますから、専門の燻蒸業者を入札で決め、館内の燻蒸庫を使用したり、量が多い場合はフレームを組んでビニールハウスのようなものを作って燻蒸します。
かつて、燻蒸には臭化メチルと酸化エチレンの混合剤(商品名エキボン)が用いられていましたが、オゾン層を破壊するために現在は使用できず、代替剤や代替手法も開発されていますが、万能のものではありません。そのため現在では、薬に頼った保存環境の維持から、日常のメンテナンスによる保存環境の構築へとシフトしているのが日本の趨勢です。日本では昔から「目通し風通し」といっていましたが、定期的なチェックと温湿度のコントロールで防ぐことのできる劣化も多いのです。地味で地道な作業の積み重ねによるしかないだけに、博物館・美術館の資料に対する姿勢がストレートに反映する分野ともいえるでしょう。
博物館の事業の中で展覧会業務は確かに目立ちますが、それはまさしく氷山の一画で、水面下で人知れず行っている業務の蓄積があってはじめて、博物館・美術館は、博物館・美術館たりえるのだと思います。燻蒸作業は16日まで続きます。(学芸員 大河内智之)
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