本日(5月28日)14:00から、和歌山県立博物館のロビーで、
和歌山雅楽会のみなさまによる、雅楽演奏会が開催されました。
和歌山雅楽会とは、昭和28年(1953)頃、和歌山県内の雅楽愛好家たちが集まり結成された和歌山県で唯一の雅楽演奏団体です。
昭和32年(1957)、和歌山城の起工式及び落成式での演奏をはじめとして、以来、住友金属工業の溶鉱炉火入れ式、邦楽芸能講座、市立博物館主催「紀州徳川家の和楽器展」、和歌山リゾート博、熊野体験博、等各地域とのつながりを大切にしながら活動を続けてこられました。
平成20年(2008)11月には、和歌山市より「文化奨励賞」を、また、今年、平成23年(2011)2月には、和歌山県から「文化奨励賞」を受賞されております。
また、各施設、学校など和歌山県全域で、日本古来の音楽をより多くの人々に広める活動をされておられます。
当館でも、今年の1月23日に、企画展「むかしの楽器」の際に雅楽を演奏していただいており、今回で2度目の演奏ということとなりました。いずれも、和歌山雅楽会のみなさまの全面的なご協力により、演奏していただいております。
そもそも「雅楽(ががく)」は、器楽(きがく)・声楽(せいがく)・舞踊(ぶよう)を合わせもった総合芸術で、古くから伝わる純日本風の歌舞(うたまい)と、およそ1400年前頃から次々と伝わってきた、アジア各地で生まれ育った様々な外来の音楽や舞踊とが融合し、平安時代に大成されたものです。
雅楽には、「管弦(かんげん)」「謡物(うたいもの)」「舞楽(ぶがく)」という三つの演奏パターンをもち、器楽曲には楽器編成の異なる、唐楽(とうがく)、高麗楽(こまがく)に分かれています。
なお、演奏のプログラムに若干の変更があり、
管弦(かんげん) 平調(ひょうじょう) 『音取(ねとり)』
平調(ひょうじょう) 『越殿楽(えてんらく)』
平調(ひょうじょう) 『林歌(りんが)』
平調(ひょうじょう) 『陪臚(ばいろ)』
の順となりました。
以下、演奏された曲の簡単なご紹介を掲載いたします。
『音取』
雅楽には、それぞれの音階を主音にして、メロディーが構成されており、「調子」(洋楽でいうハ長調、イ短調にあたる)が6種類あります。それぞれの調子に「音取」があり、「音取」は、楽曲の演奏にさきだち、その調子の旋律(せんりつ)を巧みに取り入れ、演奏される短い曲です。
『越殿楽』
越殿楽は越天楽とも書きます。この越殿楽の名のある曲は、現在3曲あり、一般に知られている平調(ひょうじょう)の曲が原曲で、あとの2曲は、盤渉調(ばんしきちょう)、黄鐘調(おうしきちょう)に移調(いちょう)されたものです。原曲の平調越殿楽は、三部形式のよく整った曲で、近衛秀麿(このえひでまろ)、直麿(なおまろ)兄弟によってオーケストラ曲にも編曲され、アメリカ、ヨーロッパでも演奏されました。
『林歌』
『体源抄(たいげんしょう)』には兵庫允(ひょうごのじょう)の玉手公頼(たまてきみより)の作とあり、『楽家録(がっかろく)』では高麗(こうらい)の下春の作と記されています。また、子祭(ねまつり、11月の子の日)とか甲子(きのえね)の日に演奏したり、謡物(うたいもの)で催馬楽(さいばら)の「老鼠(おいねずみ)」に旋律が似ていると古記にあり、また、この舞楽の装束に鼠の刺繡(ししゅう)があるので「鼠」に関係する曲であったのかもしれません。
『陪臚』
正しくは「陪臚破陣楽(ばいろはじんらく)」と呼び、印度(いんど)に起こった舞楽で、天平8年(736)に婆羅門僧(ばらもんそう)・仏哲(ぶってつ)が伝えたといわれています。元来は戦争の音楽で、出陣の際にこれを演奏し、戦略を卜(ぼく)したといわれています。舞は4人舞の戦士が楯(たて)と鉾(ほこ)を持ち、さらに剣を抜いて舞う勇壮なものですが、ここでは管弦の形式で演奏します。
なお、演奏の合間には、各楽器の紹介や、実際に現在の楽人たちが着用している装束についてのお話しもあり、大変、興味深い内容でした。
雅楽で用いられている楽器ですが、
まず打楽器(打ちもの)としては、
鞨鼓(かっこ)
楽太鼓(がくだいこ)
鉦鼓(しょうこ)
の三つが、三鼓(さんこ)と呼ばれ、雅楽の演奏では演奏全体をリードしていく重要な役割を担います。
次に、弦楽器(弾きもの)としては、
楽琵琶(がくびわ)
楽箏(がくそう)
の二つが、両弦(りょうげん)と呼ばれ、雅楽では弦楽器ですが打楽器のようにリズムをきざむ役割を担います。
最後に、管楽器(吹きもの)としては
鳳笙(ほうしょう)
篳篥(ひちりき)
龍笛(りゅうてき)
の三つが、三管(さんかん)と呼ばれ、雅楽ではメロディーを演奏する役割を担います。
このように、演奏のみならず、くわしい説明をまじえながらの演奏会でしたので、さまざまな視点から雅楽や舞楽の世界を体感できたのではないかと思います。
演奏会がはじまると、雨脚も強くなりましたが、45名ほどの方にご参加いただきました。足元の悪い中、みなさま、ありがとうございました。
また、和歌山雅楽会のみなさま方も、雨の中での演奏、会場の設営など、ありがとうございました。
ちなみに、現在の楽人は、柿渋色の直垂(ひたたれ)という装束を着用していますが、古くは、舞楽の舞人たちの常装束と同じ装束を着用しました。
現在、博物館では、江戸時代の和歌祭で使われた楽人装束が展示されています。
[常装束 袍 右方 紀州東照宮蔵]
[常装束 下襲 右方 紀州東照宮蔵]
[常装束 半臂 右方 紀州東照宮蔵]
展覧会の会期も、残り1週間ほどです。
ぜひ、この機会に、江戸時代に実際使われていた舞楽装束をご覧ください。(学芸員 安永拓世)
→特別展 華麗なる紀州の装い
→和歌山県立博物館ウェブサイト