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2月28日に那智勝浦町で現地学習会が開催されました

 2月28日(土)13時30分から那智勝浦町体育文化会館で、現地学習会「歴史から学ぶ防災―災害の記憶を未来に伝える―」が開催され、那智勝浦町内の方々をはじめ90人の参加がありました。
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 まず、主催者を代表して当館鈴木副館長が開会の挨拶を行いました。
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 続いて、5人の方々に報告を行っていただきました。
 海の熊野地名研究会会長田中弘倫さんの「那智川流域における災害地名群について」の報告では、先人たちが付けた地名(特に小字のような狭い範囲を示す地名)は生活と密接に結びついており、なかには災害が起こる可能性を示唆するものがある(「災害地名群」として集中する場合もある)。こうした地名に込められた「先人の知恵」に学ぶべきであるとして、那智川流域の「災害地名群」を紹介されました。最後に、地名も先人たちが伝えてくれ「文化財」であり、地名を大切にすることが重要であると結ばれました。
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 和歌山大学防災研究教育センター客員教授後誠介さんの「那智川流域の土砂・河川の複合災害」の報告では、2011年台風12号によってもたらされた紀伊半島における甚大な水害は、那智川流域の実態をもとに、土砂災害と河川災害の複合災害であるとお話いただきました。那智川流域で大きな被害をもたらされた要因としては、那智川が源流部から河口部までの距離が短く、急峻であること(地形的要因)、巨礫を主体とする土石流を発生させやすい花崗斑岩の岩体の分布がみられること(地質的要因)、この2つの要因のなかで大量の雨が降り、さらに集中豪雨も重なったことによって、崩壊・土石流が発生したとされました。
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 和歌山県教育庁文化遺産課技師三本周作さんの「那智勝浦町宇久井の延命寺本尊地蔵菩薩像」の報告では、まず延命寺の本尊である地蔵菩薩坐像について、正面観や衣の表現、面相表現、立体把握の検討から、制作時期は13世紀末から14世紀前半までの時期ではないかとされました。そのうえで、延命寺の縁起に記された内容や延命寺の創建時期なとの関係を検討され、延命寺の前身寺院があった可能性を示唆したうえで、中世から近世にかけて宇久井地区を襲った津波が延命寺の歴史と関わっている可能性があることも指摘されました。
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 当館主任学芸員の前田正明の「東南海地震津波と天満の大津浪記念碑」では、まず「災害の記憶」を伝える災害記念碑について簡単に説明し、そのうえで、那智勝浦町天満の天神社にある「大津浪記念之碑」は、昭和19年の地震津波の様子を生々しく伝えてくれる貴重な石碑である。ただ、この石碑は、災害の状況・教訓を伝えてくれるものであり、津波がここまで来たという到達点を示すものではない点も注意すべきであるとしました。江戸時代にも、那智勝浦は地震・津波で大きな被害を受けており、歴史的にみても、那智勝浦は何度も被害を受け、被害状況はその都度異なっている。東南海地震か、南海地震かで津波の大きさも変わってくる。揺れが小さいからといって、津波も小さいとは限らない。過去の地震津波の様子を伝えてくれる「災害の記憶」を、今一度見直して、地域の防災を考えることが大切ではないかと結びました。
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 近大姫路大学人文学・人権教育研究所講師の松下正和さんの「災害記念碑を活かした自主防災活動について」では、全国調査を踏まえ、津波記念碑が活用されている県外の事例として、①岩手県宮古市重茂(おもえ)地区姉吉の「大津浪記念碑」、②宮崎県宮崎市木花地区島山の「外所(とんところ)地震供養碑」、③大阪市浪速区幸町3丁目(大正橋東詰)「大地震両川口」津浪記石碑」について、具体的に紹介していただきました。最後に、「災害の記憶」(地域に残った伝承)と記録(記念碑だけではなく地下の災害痕跡や文献資料なども含め)を、祭や避難訓練などの地域行事内で活用し、将来に伝えることも必要だとし、県内での取り組み事例として、美浜町浜ノ瀬地区の記念碑を活用した防災マップ・避難訓練や白浜町富田地区の津波警告板を活用したお祭りなどが紹介されました。また、那智勝浦町内の北浜区や下里区の取り組みも紹介されました。
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 報告に対する質疑応答では、報告者である田中弘倫さんから、昭和19年の東南海地震津波の様子をお話いただいき、閉会しました。
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 閉会後、希望者を募って行われたワークショップでは、松下さんに司会をお願いし、参加していただいた方に今回の学習会の感想をお聞きするとともに、自分の属している自主防災組織の活動についてお聞きしました。最後に、自治体が作成したハザードマップについて意見を交わしました。
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 今回は、那智勝浦町・那智勝浦町教育委員会のご協力も得て、大盛況のうち終わることができました。今後も、こうした「災害の記憶」を伝える記念碑・古文書を発掘し、また津波や水害の被害を受ける可能性のある地域に残されている文化財について所在確認調査を行い、皆さんにお伝えしていきたいと思います。
(主任学芸員 前田正明)
災害記念碑一覧
和歌山県立博物館ウェブサイト

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