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ハンコの基礎知識「やきものに押されたハンコの名称」

ここ何回かのコラムでは、偕楽園焼(かいらくえんやき)や楽旦入(らくたんにゅう)のハンコなど、やきものに押されたハンコについて取り上げていますが、やきものに押されたハンコの名称は、書や絵に押されたハンコの名称と異なり、人によって名称がまちまちだったりします。
そこで、今回の「ハンコの基礎知識」は、やきものに押されたハンコの名称について、少し確認しておきたいと思います。
やきものに押されたハンコは、たいてい器の底裏の高台(こうだい)と呼ばれる釉薬(ゆうやく)のかかっていない部分などに押されています。
赤楽茶碗 楽旦入作 底裏 館蔵101(小)地面につく円形の輪になった部分が高台です 
このように、やきものに押されたハンコは、柔らかい土の状態で押されるため、ハンコのへこんだ部分は、押すとやきものの土が逆に飛び出たようになります。
赤楽茶碗 楽旦入作 「楽」(陰文重郭円印) 館蔵101(小)
「楽」(陰文重郭円印(いんぶんじゅうかくえんいん))のハンコがやきものに押されたあとの状態
つまり、文字の部分がへこんだ陰文(いんぶん)のハンコを押すと、押されたあとは、文字が飛び出た陽文(ようぶん)のようになるのです。反対に、陽文のハンコを押すと、押されたあとは、文字がへこんだ陰文のように見えてしまいます。
偕楽園焼 赤楽灰器 弥介作 「偕楽園制」(陰文重郭円印) 館蔵519(小)
「偕楽園制(かいらくえんせい)」(陰文重郭円印)のハンコがやきものに押されたあとの状態
文字の部分が飛び出ているので、(陽文重郭円印)にも見える
瑞芝焼 青磁六つ葵唐草文火鉢 「南紀瑞芝堂製」(陽文長方印) 館蔵20(小)
「南紀瑞芝堂製(なんきずいしどうせい)」(陽文長方印)のハンコがやきものに押されたあとの状態
文字の部分がへこんでいるので、(陰文長方印)にも見える
そのため、同じハンコでも、押す前のハンコの状態で名称をつける場合と、押されたあとのやきものの状態で名称をつける場合があり、表記する人によって名称が変わることになるのです。
しかし、よく考えてみると、このやきもの自体に押されるハンコと同じハンコが、箱書(はこがき)などに押される場合もあります。
赤楽茶碗 楽旦入作 「楽」(陰文重郭円印) 館蔵101(小) 赤楽茶碗 楽旦入作 箱書「楽」(陰文重郭円印) 館蔵101(小)
左:やきものに押されたハンコ  右:箱書に押されたハンコ
いずれも「楽」(陰文重郭円印)を押しています
菊置上香合 永楽保全作 「永楽」(陰文重郭円印) 館蔵91(小) 菊置上香合 永楽保全作 箱書「永楽」(陰文重郭円印) 館蔵91(小)
左:やきものに押されたハンコ  右:箱書に押されたハンコ
いずれも「永楽」(陰文重郭円印)を押しています
その際、やきものを中心にしてハンコの名称をつけていると、同じハンコなのに、箱書に押されたハンコと違う名称となってしまい、混乱を生じることになります。
そこで、今回の展覧会では、押す前のハンコの状態を中心に考えて、箱書に押されているハンコの名称と同じように、やきものに押されているハンコの名称も表記を統一しました。
ハンコの名称一つをとっても、書く人や本によって表記がさまざまです。
こうした、名称などを、なるべく、だれにでもわかりやすい表記に統一していくことも、博物館の資料の魅力や楽しさを、皆さんに広く知っていただくためには、必要なことではないかと考えています。(学芸員 安永拓世)
企画展 ハンコって何?
和歌山県立博物館ウェブサイト

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