スポット展示 オモテ(面)のウラが語るもの―和歌祭・面掛行列の仮面から―
会 期 平成24年4月28日(土)~6月21日(金)
会 場 和歌山県立博物館2階スポット展示コーナー(和歌山市吹上1-4-14)
開館時間 午前9時30分~午後5時
入 館 料 無料(ただし、常設展示室・企画展示室へ入室される場合は入館料が必要)
県立博物館2階で開催しているスポット展示では、平成24年度は「文化財のウラ、見ませんか?」をテーマとしています。今回の展示は、仮面の裏側に注目します。
面(おもて)とは、細面や強面など、本来は顔をあらわす言葉です。そして能や狂言で使う仮面のことも「おもて」と呼びます。面は、表側だけでなく、裏側にも隠れたさまざまな情報があります。そうしたオモテ(面)のウラが語る歴史を紹介します。
紹介する仮面は、紀州東照宮の春の祭礼・和歌祭の面掛行列(百面・面被とも)で使用されてきた96面(和歌山県指定文化財)のうちの2面です。近年に行われた修理によって得られた情報とともに、仮面の隠れた魅力をお伝えします。
狂言面 賢徳(けんとく) 室町時代 紀州東照宮蔵(和歌山県指定文化財)
狂言で用いられる仮面です。以前は、面裏に割れた部材をつなげるための布テープが貼られて覆われていましたが、修理を施して除去したところ、朱色の字で「方廣作」と書かれていました。面掛行列の仮面には同じ「方廣作」銘を持つ仮面が7面あり、全て室町時代に遡る貴重な古面です。
面裏のノミ跡は荒く残し、汗などを染みこませないために黒漆が塗られています。
能面 小尉 江戸時代 紀州東照宮蔵(和歌山県指定文化財)
上品な老人を表した仮面です。面裏には「天下一友閑(てんかいちゆうかん)」の焼印がおされ、出目満庸(でめみつやす・?~1652)という優れた面打が製作したものと分かります。面掛行列の仮面には同じ焼印のものが7面含まれ、それらの優れた仮面の収集には紀伊徳川家初代藩主の徳川頼宣が関与した可能性があります。
ノミ跡は、きれいに横に並べて整えられています。
【和歌祭の面掛行列について】
和歌山市の西南に位置する風光明媚な景勝地・和歌浦に、徳川家康をまつった紀州東照宮があります。家康の子頼宣が、駿河国から紀伊国に領地替えとなって入国したのち、元和7年(1620)に東照宮を創建、翌年の春、家康の忌日である4月17日に初めての例祭が執り行われました。この例祭を和歌祭とよんでいます。
和歌祭の大きな特徴は、神輿のあとに様々な種類の行列が連なることで、大変にぎやかな様相を示します。その行列の一つが面掛で、その名称の通り仮面を付け、華美な装束を身につけ、杖や扇を手にし、頭巾をかぶって練り歩きます。現在ではさらに飾りをつけた傘を持ったり、高下駄をはいたり、手に鳴り物を持ったりもしています。
紀州東照宮には、この面掛で使用されてきた中世から近代にかけて作られた仮面が多数残され、現在96面が和歌山県指定文化財に指定され、さらに2面が見つかっています。仮面の構成は多様で、神事で使用されたと思われる仮面や、能面、狂言面、神楽面、鼻高面が混在しています。
仮面の大半には面裏に「東照宮什物」の焼印と、朱字や白字で番号が記されていて、近代期に幾度かの整理が行われたことが分かります。現存する仮面に記された最も大きな整理番号は「第百拾六号」ですので、かつては今以上に仮面があったこともわかります。
これらの仮面は一度に用意されたものではありません。面掛は元和8年の祭礼では38人の集団で、その後39人の構成を示す場合と(『紀伊国名所図会』ほか)、79人の構成を示す場合があり(『紀伊続風土記』)、その構成人数には増減がありました。
東照宮祭礼である和歌祭の内容には藩主の意向が強く反映されましたので、最初に使用された仮面の手配には、藩主や藩が主体的に関わっていたと想定されます。中でも面裏に「方廣作」と朱字で記された仮面7面は、全て室町時代までに作られた古面で、おそらく江戸時代初期に集められたものでしょう。また面裏に江戸時代初期に活躍した有力な仮面制作者(面打)である「天下一友閑」(出目満庸)の焼印があるものが7面あり、こういった名人の仮面は当時でも入手が難しいもので、藩主の関与があったことを示唆しています。
全体のうち神楽面が占める割合が大きく、それら庶民的な仮面の調達については藩の主導ではなく祭礼に参加した住民の関与があった可能性もあるでしょう。また近代においては一部の仮面が散逸し、新たに仮面を追加したともいわれます。そして現在、古い仮面の保護のため、NPO和歌の浦万葉薪能の会と能面文化協会の協力で新しい仮面の制作と奉納が行われ、新旧の仮面が併用されています。
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「コラム奇跡の仮面(4) 進化する面掛行列」
「コラム奇跡の仮面(3) 仮面がつなぐ時と人」
「コラム奇跡の仮面(2) 徳川頼宣と面掛」
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