和歌山県立博物館施設活性化事業実行委員会・博物館部事業報告
事業名称
「和歌山県の文化遺産を活かした観光振興・地域活性過化事業」
(文化庁平成24年度文化遺産を活かした観光振興・地域活性化支援事業のうち「ミュージアム活性化支援事業」採択)
事業主体
和歌山県立博物館施設活性化事業実行委員会(委員長:高瀬要一、委員:藤本清二郎、中村貞史、中島暁子)
【事務局(文化遺産課)、博物館部(県立博物館)、紀伊風土記の丘部(風土記の丘)】
協力:和歌山県立和歌山工業高校、和歌山県立和歌山盲学校、田辺市教育委員会、日本点字図書館
博物館部事業内容
「新規利用者層創出事業(さわれるレプリカ作製による文化財の保存・活用と博物館のユニバーサルデザイン化事業)」
事業報告
1、県内所在文化財の保全と触れるレプリカによる博物館のユニバーサルデザイン化の促進
和歌山県内に所在する文化財のうち、盗難や災害等で被害を受ける可能性のある重要資料を県立博物館へ輸送・保管し、和歌山県立和歌山工業高校との協働でそのレプリカを作製して所蔵者へ提供した。それぞれへのレプリカの提供時期は以下の通り。これによって、信仰の場を保全するなど伝来環境の変化を最小限に留めながら、文化財の保存環境を整えることができた。
あわせて作製した複製の一部については博物館内に設置し、視覚に障害のある人をはじめ、全ての人にさわって頂けるようにし、博物館展示のユニバーサルデザイン化を進めた。
(作製した複製と提供日)
滝尻王子宮十郷神社(田辺市) 滝尻金剛童子立像 複製提供日:2013年3月27日 (1)
某神社(有田川町) 女神坐像 複製提供日:2012年12月13日
林ヶ峰観音寺(紀の川市) 菩薩形坐像 複製提供日:2013年2月4日 (2)
中津川行者堂(紀の川市) 役行者及前後鬼像 複製提供日:2013年3月24日 (3)
左/滝尻金剛童子像と複製(1) 中/菩薩形坐像と複製(2) 右/役行者及び前後鬼像複製(3)
左/今年度事業で作製した全てのレプリカ 右/滝尻王子宮十郷神社での安置のようす
左/林ヶ峰観音寺での贈呈のようす(和歌山県立和歌山工業高校の生徒とともに) 右/安置のようす
左/中津川行者堂での贈呈のようす(聖護院門主による開眼供養) 右/安置のようす
2、文化財保護を啓発する展示キットの作製とさわって読む図録の作製
文化財の破壊や盗難の実態とその防止策について啓発するために、県立和歌山工業高等学校との連携して作製したさわれるレプリカ資料(牛馬童子像本体、牛馬童子像頭部、仏像脚部断片)と解説パネル4枚からなる、貸し出し可能のさわれる展示キット「未来へ伝えよう私たちの歴史-文化財を守るために-」を作製し、県立博物館企画展「文化財受難の時代」(会期:平成25年3月9日~4月21日)で展示公開した。今後、要望に応じて、他施設でも展示し、活用する。
あわせて展示内容に即した同名の文化財保護啓発用図録として、特殊な透明盛り上げ印刷を使用した点字と図を通常の印刷に重ねた、視覚に障害のある人がない人とともに使える、さわって読む図録を作製した。この図録は、県内全図書館、盲学校など公共施設に寄贈して視覚障害者の郷土学習の素材として活用するとともに、同種の図書の普及のため、全国の博物館、主要図書館等にも寄贈して周知を図った。なお、盛り上げ印刷を施さない普及版についても作製し、展示キットの鑑賞者等に配布した。
左/展示キット「未来へ伝える私たちの歴史-文化財をまもるために-」
右/仏像脚部とそのさわれるレプリカ
牛馬童子像のさわれるレプリカ
さわって読む図録『未来へ伝える私たちの歴史-文化財を守るために-』
事業実施による効果
集落の高齢化や少人数化による地域コミュニティが縮小するなどの要因で、文化財の継続的な保存が難しい地域が増加している状況の中で、県立博物館で資料の寄託を受けることで、継続的な保存環境を確保した。そしてその複製を作製することを通じて、和歌山県立和歌山工業高等学校では生徒の社会参加と効果的な学習を導き、所蔵者にあっては複製を安置することによって地域の信仰や慣習への影響を最小限に留めた。
生徒の学びや保存環境の整備という事業の効果は定数的には捉えにくいが、一連の活動については、NHK(関西、2013年1月20日)、NHK(全国、2013年2月9日)、NHKワールド(世界配信、2013年3月15日)で繰り返し放送されたほか、毎日新聞(2012年11月26日<関西版>、2013年2月5日<関西版>)等で紹介され、その活動の意義が広く共有されつつある。
展示キット「未来へ伝える私たちの歴史-文化財を守るために-」は、県立博物館だけでなく、他施設や教育機関等での普及活動が可能であり、盛り上げ印刷による点字付き啓発用冊子(及び通常印刷の冊子)とあわせて、県内各地域の魅力の源泉の一つである文化財の保護への呼びかけを、今後継続的に行うために活用する。
特にさわれるレプリカによる展示では視覚障害者に対するバリアーを解消し、健常者にとっても見る・読むにとどまらない多くの情報を提供することができる。またさわって読む冊子は、障害のある人、ない人がともに情報を共有化するツールであり、情報が最も届きにくい人に向けて作製したことで、だれにとっても分かりやすい内容となった。博物館展示のユニバーサルデザイン化を進め、障害者の利用数の増加(前年度比1.1倍)を始め、博物館利用者の満足度を高めることができた。
NHK WORLD(2013年3月15日配信)→動画はこちら
毎日新聞(関西版、2013年2月5日)
(学芸員 大河内智之)