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コラム 紀伊藩主をめぐる文雅(4) 初公開!鶴の形をした中国の器

染付鶴香合 画像クリックで拡大します。
染付鶴香合 個人蔵


初公開!鶴の形をした中国の器


 紀伊藩が支配した紀伊半島は、瀬戸内海と太平洋に面しています。海上輸送が流通の中心であった江戸時代、これらの海は、江戸・大坂・京・長崎を結ぶ重要な航路でもあり、海上を流通する文物の大半は、江戸へ至る前に、紀伊半島を経由したのです。そのためか、紀伊藩主ゆかりの資料の中には、中国や西洋などからの舶来品も多く残されており、こうした資料からは、日本に限らず全世界へ目を向けた、先進的な藩主の姿も浮かび上がってきます。
 写真に挙げた染付鶴香合(そめつけつるこうごう)は、紀伊藩十代藩主である徳川治宝(はるとみ、1771?1853)の中国趣味をよく示す資料の一つで、鶴の形をした中国製の磁器の香合です。
 香合とは、茶席で炊くお香を入れる小さな容器のことですが、中国では、もともと蓋のついた容器として作られ、日本で香合に見立てられたものでしょう。この香合は、白い地に青い色で文様をあらわす染付という技法が用いられており、鶴がうずくまった姿をかたどり、底には鶴の脚を盛り上げて表現しています。器の内側には染付で文様が描かれ、蓋の裏にあしらわれているのは、菊の花と虫の文様です。一方、身の内側には「康煕通宝(こうきつうほう)」という中国の貨幣の文様と、道光(どうこう)という中国・清時代の年号に作られたことを示す「道光年製(どうこうねんせい)」の文字があらわされています。
 これに関連して興味深いのは、箱の蓋表に記された「新渡(しんわたり)」の文言です。新渡とは、江戸時代に入ってから中国よりもたらされた比較的新しい舶来品であることを示す言葉で、先に述べたような器の特徴とも一致しています。また、箱の蓋裏には、治宝の遺品として分配された経緯も記されており、紀伊藩主が愛用したことが明らかな中国製のやきものとして貴重な作例です。
 この香合は、今回の展示で初公開となった作品で、紀伊藩主の世界へのまなざしを知る上でも、興味深い資料と言えるでしょう。(学芸員安永拓世)
企画展 紀伊藩主をめぐる文雅
和歌山県立博物館ウェブサイト

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