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コラム 紀州の画家紹介 33 山沢与平(やまざわよへい)

企画展「江戸時代の紀州の画家たち」の関連コラム
「紀州の画家紹介」
最終回の33回目にご紹介するのは、山沢与平(やまざわよへい)です。
山沢与平(やまざわ・よへい)
◆生 年:文化10年(1813)
◆没 年:未詳
◆享 年:未詳
◆家 系:江戸の紀伊藩士である山沢釜五郎充房(やまざわかまごろうみつふさ、1769~1833)の長男
◆出身地:江戸
◆活躍地:江戸・紀伊?
◆師 匠:遠藤広実(えんどうひろざね、1774~1862)
◆門 人:未詳
◆流 派:住吉派
◆画 題:古典・人物
◆別 名:賀之助・尹詮・読画など
◆経 歴:紀伊藩士、画家。江戸在住の松山藩のお抱え絵師である遠藤広実から住吉派の大和絵を学ぶ。紀伊藩10代藩主の徳川治宝(とくがわはるとみ、1771~1852)から評価され、その命を受けて、古典を題材にした大和絵や、古い絵巻の模写などを積極的におこなった。治宝の留筆(とめふで)となったともされる。全体にあっさりとした画風で、軽妙で洒脱な表現を得意とした。73歳の作が残ることから、明治20年(1887)頃まで活躍していたとみられる。
◆代表作:「彦火々出見尊草紙(ひこほほでみのみことそうし)」(個人蔵)明治8年(1875)、「漁夫図(りょふず)」(個人蔵)明治18年(1885)など
今回展示しているのは、「山部赤人像(やまべのあかひとぞう)」(和歌山県立博物館蔵)です。
山沢与平筆 「山部赤人像」 (和歌山県立博物館蔵) 軽
(以下、いずれも画像をクリックすると拡大します)
山沢与平筆 「山部赤人像」 款記 (和歌山県立博物館蔵) 軽 山沢与平筆 「山部赤人像」 印章 (和歌山県立博物館蔵) 軽
款記は「行年六十九老学生文守乃与平」で、印章は「読画」(朱文方印)です。
この絵は、奈良時代に活躍した歌人である山部赤人(生没年未詳)を描いた絵で、上部に飛んでいる鶴らしき鳥を描いていることから、「若の浦に潮満ち来れば潟(かた)をなみ葦辺(あしべ)をさして鶴(たづ)鳴き渡る」という赤人の和歌を題材にしたものとみられます。全体にあっさりとした筆致や彩色で描いており、下絵のような印象もありますが、与平はこうした淡泊な描写を得意としました。波の描き方などは、より古い時代の表現を用いており、与平の古典学習の跡がうかがえます。款記から、与平が69歳のとき、明治14年(1881)の作であることがわかります。
合計32名の江戸時代の紀州の画家をご紹介してきたコラムは、今回で終了です。今回、展示でご紹介した作品の選定にあたっては、できるだけ、その画家の代表作や、制作年などの判明する作品を選ぶように努めました。また、このコラムで作品と款記と印章の画像を公開することを前提に、基本的には博物館が所蔵する館蔵品を選びましたが、館蔵品に無い画家の作品などについては、一部、個人蔵のものも掲載させていただきました。ご協力いただきましたご所蔵者のみなさま、ありがとうございました。
こうしたコラムでの紀州の画家の伝記と作例の公開が、今すぐに役に立つとは限りませんが、今後、少しでも江戸時代の紀州の画家について調べようとした方の、一つの叩き台のようなものになればよいのではないかと考えています。充分な調べが行き届かずに、このコラムに公開してしまった画家が何人もいますので、間違いも多いのではないかと思います。みなさまも、お気づきの点がございましたら、ご意見・ご感想をいただけましたら幸いです。今後とも、博物館の活動にご理解とご協力のほど、なにとぞ、よろしくお願い申し上げます。(学芸員 安永拓世)
江戸時代の紀州の画家たち
和歌山県立博物館ウェブサイト

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