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コラム「大切なことは箱に書く!」

今回の「箱と包みを開いてみれば―文化財の収納法―」のコラムでは、
「大切なことは箱に書く!」について、ご紹介しましょう。
前回のコラムで、火災から守った箱についてご紹介しましたが、箱は、外の衝撃から中身を守るだけではありません。箱は、基本的に中身のものとセットで伝わります。そのため、箱に、中身の情報や、中身が大切であると書くことで、それを読む人に、中身の情報や大切さを伝えるという役割を果たしました。このように箱に書かれた文字を箱書(はこがき)といいます。箱書には、中身からはわからない情報などが記される場合もあり、中身が伝えられてきた歴史を知るうえで、とても重要なものでした。
瑞花双鸞八稜鏡 丹生都比売神社蔵(画像をクリックすると拡大します)
写真に挙げたのは、「瑞花双鸞八稜鏡(ずいかそうらんはちりょうきょう)」と呼ばれる鏡で、高野山のふもとのかつらぎ町上天野にある(ひうつひめじんじゃ)に伝えられたものです。丹生都比売神社は、高野山の鎮守でもあり、高野山とゆかりの深い神社としてもよく知られています。八稜鏡(はちりょうきょう)とは、八角形の先端を、花びらの先のような形にした鏡のことで、この八稜鏡は、鏡の背面の中央にある鈕(ちゅう)という盛り上がったつまみの部分の周囲に蓮(はす)の花弁をあらわし、その外側に瑞花(ずいか)という花と、鸞(らん)という鳥をあしらったものです。瑞花も鸞もおめでたい文様で、その文様の表現などから、鏡は、平安時代の後期、12世紀ごろの制作ではないかと考えられます。
一方、この鏡は、「朱塗蓮華形鏡箱(しゅぬりれんげがたかがみばこ)」という箱に収納されて伝えられました。
瑞花双鸞八稜鏡 鏡箱 丹生都比売神社蔵(画像をクリックすると拡大します)
鏡箱は、八稜鏡という鏡の形にあわせて内側をくりぬき、外側は八稜鏡にあわせて蓮の花の形にした珍しいものです。蓮の実や花弁の部分は、かなり細かく彫刻されています。全体に黒漆(くろうるし)の上から朱色の漆(うるし)を塗っており、形を作ってから漆を塗る鎌倉彫(かまくらぼり)の技法が用いられています。
ところで、この鏡箱の身の内底には、宝永3年(1706)に高野山上の小田原谷(おだわらだに)にある龍城院(りゅうじょういん)という寺院から、高野山のふもとのかつらぎ町上天野にある丹生都比売神社へ奉納されたことを示す銘文が彫られています。
瑞花双鸞八稜鏡 鏡箱 内底箱書 丹生都比売神社蔵(画像をクリックすると拡大します)
こうした情報も、箱に記された箱書の一種であり、奉納の時期や経緯を知るうえで、重要な情報です。高野山と丹生都比売神社の密接な関係をうかがうこともできます。
中身の鏡自体には、何も記されていませんが、この鏡の形にぴったりくり抜かれた鏡箱は、この鏡以外の鏡は収納できませんから、箱に記された箱書は、中身の鏡に記されていると同じ意味を持つのです。
このように、箱は、箱書を通して、中身にかかわる情報を伝えるという大切な役割をも担いました。(学芸員 安永拓世)
企画展 箱と包みを開いてみれば―文化財の収納法―
和歌山県立博物館ウェブサイト

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