今回の「ハンコの基礎知識」は、最終回ということで、基礎知識というよりは、むしろ展示してあるハンコを楽しんで見てもらおうということで、自分なりの「好きなハンコベスト3」をつけてみてはいかがでしょう?
「基礎知識」といいながら、色々と難しい説明をしてきましたが、結局、ハンコを一番楽しむ方法は、そのハンコが「好きか」「嫌いか」でしょう。
今回の展示では、全部で42顆(か)56面のハンコが展示されています。
「自分だったら、このハンコが欲しい。あるいは、このハンコを押してみたい。」という、最もシンプルな選び方でいいので、自分なりのマイベストを選んでみるのもよいかもしれません。
試みに、担当者である私自身が選んだ、好きなハンコのベスト3をご紹介したいと思います。
第1位
桑山君婉使用印「才不才之間」(陽文長方印) 個人蔵
(くわやまくんえんしよういん「さいふさいのかん」(ようぶんちょうほういん) こじんぞう)
【理由】
文章の意味の面白さ(「才能があるのとないのとの間」という意味か?)
文字の部分のシャープな彫りあと
文字でない部分の彫りくぼめ方の繊細かつ大胆さ
印面と押したハンコ(印影)との見事なギャップ
そして、何よりも、長方形のわく(郭(かく))と文字との間の絶妙の間隔と配置
第2位
桑山玉洲使用印「桑嗣燦」「和歌浦人」(陰文連印) 個人蔵
(くわやまぎょくしゅうしよういん「そうしさん」「わかうらじん」(いんぶんれんいん) こじんぞう)
【理由】
印材の艶やかな質感と光沢が美しい
連印の上部に縦長の三文字で「桑嗣燦」と配し、連印の下部に小大大小の四文字で「和歌浦人」と配した、文字配置の面白さ
まろやかな文字の雰囲気と印材が呼応
陰文の彫り味のバリバリとした線質
第3位
使用者不明印「高山峨々流水洋々」(陰文方印) 個人蔵
(しようしゃふめいいん「こうざんががりゅうすいようよう」(いんぶんほういん) こじんぞう)
【理由】
鈕(ちゅう)とよばれる印材の頂上のつまみの部分にあらわされた蓮華の装飾の美しさ
(ただし、押しにくいので、印影は美しく出ない)
文字の配置の妙、とくに「山+我」で「峨」となり「羊+水」で「洋」となる点
印文を読めたときの喜びがひとしお
印面における陰文の絶妙の配置により、朱色の地の残りが美しい
あくまで、きわめて個人的な見解であり、独断と偏見により、好きなハンコを決めました。一応、そのハンコを取り上げた理由も書いてみましたが、その他のハンコも興味深いものが多く、ここに選びたいものが、いくつかありましたが、とりあえず、この3点を選んでみました。
みなさんも、ハンコを見て、感じ方や思うところは色々のはずです。
ぜひ、自分の好きなハンコを捜してみて、じっくり見入ってみてください。(学芸員 安永拓世)
→企画展 ハンコって何?
→和歌山県立博物館ウェブサイト