このたび、和歌山県立和歌山工業高校産業デザイン科との協働で作製していたさわれる文化財レプリカ、和歌山県立和歌山盲学校・日本点字図書館の協力を得て作製していたさわって読む図録が完成しました。
　これらレプリカや図録（および図録を利用した解説パネル）を和歌山県立博物館常設展示室内に設置し、常時公開しています。ぜひ皆様、お気軽に「さわりに」来て下さい！



　これは平成23年度文化庁文化遺産を活かした観光振興・地域活性化事業に採択された「さわれる資料を活用した博物館のユニバーサルデザイン化事業」による成果です。
　この事業は、和歌山県立博物館常設展示改善計画の一環として、次の３つの活動を柱としています。
　Ⅰ、館蔵品等のレプリカを作成し、常設展示室内に設置する。
　Ⅱ、活字と点字、写真図版と盛り上げ印刷を組み合わせる特殊印刷技術を用いた、視覚障害者が健常者とともに使える展示図録を作成する。
　Ⅲ、LED光源を展示室内に新たに設置して、保存環境を維持しつつ照度を確保することで、弱視者を含む視覚障害者や高齢者に対する展示環境の改善を図る。
　以下、この事業の現時点での活動報告を、お知らせ致します。
　
Ⅰ、さわれるレプリカ資料の作製
　和歌山県立和歌山工業高校と連携して、3D立体コピー技術実習の一環として館蔵品等のさわれるレプリカを作製しました。
　作製したレプリカは、袈裟襷文銅鐸（太田・黒田遺跡出土、和歌山市教育委員会所蔵）、鳥形埴輪（大日山35号墳出土、和歌山県教育委員会所蔵）、蓮華文軒丸瓦（上野廃寺・西国分廃寺出土、和歌山県教育委員会所蔵）、大日如来坐像（那智経塚出土、那智山青岸渡寺所蔵）、一石五輪塔（根来寺坊院跡出土、和歌山県教育委員会所蔵）、偕楽園焼交趾写二彩寿字文花生（当館所蔵）、牛馬童子像（田辺市教育委員会管理）の７点です。
　このレプリカ作りは、県立和歌山工業高校産業デザイン科の生徒のみなさんに実習の一環として行ってもらったものです。
　平成24年３月10日からの常設展示室への設置に先立って、２月10日～３月９日の会期でロビー展「できたて！今年の新作さわれるレプリカ！」を開催し、先行公開しました。
　→ロビー展「できたて！今年の新作さわれるレプリカ！」(2/10～3/9）
　→レプリカを作った和工生、ご来館～！
Ⅱ、さわって読む図録の作製
　活字と点字、写真図版と盛り上げ印刷を組み合わせる特殊印刷技術を用いて、視覚に障害のある方とない方がともに使える図録『きのくにの祈り―さわって学ぶ祈りのかたち―』を作製しました。掲載している資料は、Ⅰで作製したさわれるレプリカと共通です。
　この図録の作製には、昨年度にさわって読む図録『仮面の世界へご招待―さわって学ぶ和歌祭―』を作製した際にもご協力をいただいた、和歌山盲学校の教員のみなさんから多くの助言を得ています。点訳や校正等では日本点字図書館のご協力を得ています。

Ⅲ、常設展示室内の照度環境の改善
　常設展示室内に、LEDスポットライトを新たに設置し、展示ケース内の照度とのバランスを図りながら、通路の照度環境を改善し、快適性の向上に努めました。
　博物館では普段、資料を見て解説文を読む、目で見る展示を主な展示手法としています。しかし、博物館におけるバリアフリーという観点からいえば、視覚に障害のある方にとっては、この目で見る展示そのものがバリアーであるという現状があります。
　そうした中で、今回作製したさわることができるレプリカ資料は、実際に手にとって形を確認することができることから、展示のバリアフリーにつながるものと考えています。
　またさわることによって資料を身近に感じ、視覚以外の情報も得ることは、展示室内の照度環境改善とも合わせて、子どもから高齢者まであらゆる来館者が展示を楽しむことができる、博物館のユニバーサルデザイン化につながることとも考えています。
　今後も来館者にとって快適な展示環境を構築するため、博物館のユニバーサルデザイン化を継続し、改善に努めていきたいと思います。
　また、さわって読む図録は、視覚に障害のある方が和歌山県の郷土学習を行うための教材がほとんどない状況において、博物館での調査研究活動の蓄積を元にして内容を構築し、郷土の歴史を身近に感じてもらうために作製しました。見える人、見えない人、見えにくい人が共に学びあえる本を目指しています。
　常設展示室内のさわれるレプリカの展示にあたっては、このさわって読む図録を解説用キャプションとしても利用しています。
　さわって読む図録は、盲学校や公共図書館等への寄贈を通じて、広く活用していただけるよう、図っていきたいと思います。
（学芸員　大河内智之）