次は、夏休み企画展で取り上げたもう一人の画家の絵具箱です。
画材道具 真砂家所用(がざいどうぐ まなごけしょよう)
一式
江戸時代(18~19世紀)
個人蔵
これは、真砂幽泉(まなご・ゆうせん)という、江戸時代(18~19世紀)に活躍した画家の家に伝わった絵具箱です。
真砂家で大切に保管されてきました。
幽泉は、江戸時代の田辺(今の和歌山県田辺市)で活躍した画家です。今から約250年前に生まれました。
絵が大好きだった幽泉は、10代のころ、何年か京都でくらして、鶴沢探索・探泉という狩野派系の師に絵を習いました。
幽泉は、大庄屋をしていた家の跡を嗣いでからも、仕事の合間に、たくさんの絵を描き、
紀伊藩八代目藩主である徳川重倫(しげのり)に絵を献上するなど活躍が知られます。
この箱は、箪笥の形をしていて、引き出しは、後ろの穴から指で押して開けます。
数十本の筆や、絵具(顔料)、絵皿、膠など、道具一揃いが入っています。この箱をそばにおいて、絵を描いたのでしょう。
前回のコラムで紹介した桑山玉洲の絵具箱は、中国趣味が濃厚で洒落たものでしたが、この真砂家の絵具箱は、機能的でシンプルです。
江戸時代の絵の描き方や道具は、現在「日本画」と呼ばれている絵の描き方や道具と、だいたい同じです。
学校などで使う絵具セットと大きく違うのは、絵具がチューブに入った練り物ではなく、粉であることです。
粉の絵具は、「膠」という、動物の皮や骨から作った接着剤と混ぜることによって、紙に描くことができます。
幽泉たちが使う粉の絵具は、「顔料」といい、石などを砕いて粉にしたものです。
水には溶けず、絵皿(パレット)の上で他の色と混ぜることができないので、絵の上で重ねて、複雑な色を表します。
顔料のほかに、植物や虫から作った、水に溶ける「染料」も、絵具として使っていました。
幽泉も、一色で塗ったり、重ねたりと、工夫をしているようです。
展覧会では、次のような作品を展示し、幽泉の色づかいをご覧いただきました。
(兜図 真砂幽泉筆 紙本著色 個人蔵)
端午の節句(今のこどもの日)に飾る兜を描いた絵。左素主人という人が、絵の上のほうに和歌を書いています。細かい線で輪郭を描き、赤、茶、黄、緑、青、白、臙脂などをふんだんに使って色を塗っています。
(蓬莱山図 真砂幽泉筆 紙本著色 個人蔵)
「蓬莱山」という、仙人の住む山を描いた、おめでたい絵です。
朝日の赤、松や亀の緑、梅や鶴の白が鮮やかです。とんがった山には、青や橙色を薄く塗って、朝日を浴びて輝く様子を表しています。細やかな色づかいが魅力です。
次のコラムでも道具類を紹介します。
(学芸員 袴田)