
令和7(2025)年6月14日(土)~7月21日(月・祝)
日本文学の歴史の中で、仮名文学とならんで、漢字のみで詩文を表現する漢文学が相当にさかんであったことは、十分に知られていないことかも知れません。しかし、平安時代前期とともに、江戸時代にはとくに漢文学への関心が高く、教養のある人びと、すなわち文人たちは漢詩を学習し、みずから漢詩を作っていました。このような状況は全国的に広がり、きのくに−和歌山でも漢詩が多く詠まれていました。
なかでも、紀伊藩の儒学者であった祇園南海(1676〜1751)は、生まれ育った江戸で本格的に漢詩文の素養を身につけ、10代後半にはすでに漢詩人として頭角をあらわしていました。現在では、紀州の三大文人画家の一人として知られる南海ですが、それはあくまでも中国文化学習の過程で後半生に派生したものであり、南海の本質は漢詩人であったものと考えられます。
このたびの企画展では、県立博物館に収蔵されている館蔵品や寄託品の中から、祇園南海の漢詩をみずからの書で表現した作品を中心に紹介し、漢詩人・書家としての南海の卓越した才能に迫ります。
【展示の構成】
プロローグ :漢詩集出版をめざして南海が整理した自筆稿本
Ⅰ 中国の古典 :中国で詠まれた漢詩を、南海が書写した作品
Ⅱ 自然と景観:紀州での活動の中で、折りにふれて自然や景観を詠んだ作品
Ⅲ 友情 :漢詩を愛好した仲間や朝鮮通信使との交流をあらわす作品
Ⅳ 人生 :年をかさねた感慨、理想とする生き方を詠んだ作品
Ⅴ 詩と絵 :南海自作の絵画のなかで詠まれた漢詩作品
(展示資料計33件36点、別添「展示資料目録」参照)
展示のみどころ
①南海自らが整理した詩集の草稿 《展示番号1:南海詩集 自筆稿本(なんかいししゅう じひつこうほん)》 |

展示番号1:南海詩集自筆稿本(なんかいししゅうじひつこうほん)
生涯多くの漢詩を詠んだ祇園南海は、生前に漢詩集を刊行しようとしていたようです。この資料は、南海が漢詩の種類ごとに整理して、4冊にまとめています。しかし、これは完成原稿ではなく、まだ推敲(すいこう)を加えている段階のものです。ここで南海自らが選んだ漢詩は、現存する掛軸などの個々の作品ともかなり対応しており、南海の漢詩を研究する上で一級の資料ということができるでしょう。結局、南海の生前には漢詩集は刊行されず、没後30年以上経ってから、この資料から弟子が作品を抜粋した『南海先生文集(なんかいせんせいぶんしゅう)』が上梓(じょうし)されました。
②中国の故事に精通した南海 《展示番号4:十雪新咏(じっせつしんえい)・七家雪詩(しちかせつし)》 |

展示番号4:十雪新咏(じっせつしんえい)・七家雪詩(しちかせつし)
南海は、14歳で京都の儒学者・木下順庵(きのしたじゅんあん)に入門して学びました。儒学を学ぶなかで、中国の古典に深くふれ、中国文化の豊富な知識を身に付けていきました。そうした背景のもとで制作されたのが、この連作詩です。前半は中国の人物に関する雪の故事をもとに詠(よ)んだ10首の漢詩(南海自筆)、後半は様々な職業を持つ家に降る雪を詠んだ7首の漢詩です。あまり知られていないような様々な故事をふまえながら、統一的な枠組みに整合させ、さらに制約が多い漢詩の形式でまとめていく南海の並外れた技量がうかがわれます。初公開資料。
③朝鮮通信使との詩文のやりとり 《展示番号24:和従事李南岡(じゅうじりなんこうにわす)大坂城五十韻(おおさかじょうごじゅういん)》 |

展示番号24:和従事李南岡(じゅうじりなんこうにわす)大坂城五十韻(おおさかじょうごじゅういん)
紀伊藩に儒官として仕官した南海は、将軍の側近で南海の兄弟子にあたる新井白石(あらいはくせき)の推挙により、10年間の謹慎処分を解かれ、正徳元年(1711)に来訪した朝鮮通信使の応接役に抜擢(ばってき)されます。朝鮮通信使との応接においては、使節団の人びとと漢詩文をやりとりしており、その時に作られた詩文は、担当者ごとに詩文集が刊行されるほど、当時評判になりました。この資料は、使節団の序列第3位の従事官に贈った南海自筆の五言(ごごん)の韻文(いんぶん)で、五色(ごしき)の紙を用いて、きわめて高尚な表現で大坂に宿泊した使節との善隣を詠んだものです。やや堅めの丁寧な行書であらわされています。伝来は不明ですが、従事官に実際に贈呈されたもの、あるいはその忠実な控えではないかと考えられます。
展覧会情報
会場 | 和歌山県立博物館 1階企画展示室 |
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会期 | 令和7(2025)年6月14日(土)~7月21日(月・祝) |
開館時間 | 9:30〜17:00(入館は16:30まで) |
休館日 | 月曜日(ただし、7月21日(月・祝)は開館し、翌22日(火)は休館) |
観覧料 | 一般310円(250円) 大学生190円(150円) *()内は20人以上の団体料金。 *高校生以下、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方は無料。 *毎月第1日曜日は無料(会期中では、7月6日) |
主催 | 和歌山県立博物館 |
関連事業
◇ミュージアム・トーク(担当学芸員による展示解説)
6月14日(土)・22日(日)・28日(土)
7月6日(日)・12日(土)・20日(日)
※いずれも 午後1時30分から1時間程度(入館手続きが必要)
