2023年10月14日(土)~11月26日(日)
承安(じょうあん)3年(1173)紀伊国(きいこく)有田(ありだ)の地に、湯浅党(ゆあさとう)の祖・湯浅宗重(むねしげ)を祖父として、明恵上人は生まれました。神護寺や東大寺で教学を極め、栂尾(とがのお)高山寺(こうさんじ)を華厳(けごん)の道場として再興したことで知られますが、故郷とのつながりはその生涯にわたります。明恵の没後、弟子の喜海(きかい)は上人の行状記(ぎょうじょうき)をまとめ、紀州での日々を支えた湯浅一族とともに「明恵上人紀州八所遺跡(国指定史跡)」を定めました。本展では、生前の明恵の足跡をたどりつつ、故郷を舞台に生まれた伝説、花開くゆかりの美術や芸能を通して、明恵讃仰(さんごう)の歴史を紐解きます。
【展示構成】プロローグ 明恵上人誕生/Ⅰ 紀州にて:つとめ・はげみ・もとめ・いのる
Ⅱ 栂尾より:思想はかたちに/Ⅲ 伝説へ:信仰の武士団と春日の神/エピローグ 慕うこころ
展示資料総数 120件271点(うち国宝1点、重文14点、和歌山県指定34点、有田市指定5点、湯浅町指定14点、有田川町指定9点、広川町指定5点、岸和田市指定1点)
展示のみどころ
プロローグ 明恵上人誕生
湯浅の一族に生まれ生涯にわたって故郷とのつながりをもち続けた明恵上人は、亡くなる前年、湯浅に施無畏寺(せむいじ)を開きます。施無畏寺は湯浅一門の寄進と誓いによって創建され、そのことを記す「湯浅景基(ゆあさかげもと)寄進状(きしんじょう)」は、紀州・明恵上人伝の最も重要な瞬間の資料とも言えるでしょう。釈迦(しゃか)を父と慕い、紀州で厳しい修行に励み、湯浅一族のために何度も祈りを捧げた明恵の人となりをご紹介します。
和歌山県指定文化財 明恵上人坐像(みょうえしょうにんざぞう)(施無畏寺蔵)
施無畏寺開山堂の明恵上人像は青年の姿
国宝 明恵上人(みょうえしょうにん)歌集(かしゅう)(京都国立博物館蔵)
思うままに和歌を詠んだ明恵、湯浅の町を「ワマチ」と歌う
重要文化財 湯浅景基寄進状(施無畏寺蔵)
二つの「寄進状」が並んで展示されるのは初めて
重要文化財 湯浅景基寄進状(大谷大学博物館蔵)
Ⅰ 紀州にて つとめ・はげみ・もとめ・いのる
青年期の明恵は京都で活動するかたわら、いくども故郷の紀州に戻り、修行を重ねました。弟子や仲間とともに過ごした研鑽(けんさん)の日々のことは、弟子の記録や明恵の夢日記、京都の高山寺(こうさんじ)に納められる経典類などからつぶさに明らかになります。10年間で、白上(しらかみ)・筏立(いかだち)・糸野(いとの)・星尾(ほしお)・神谷(かみたに)・崎山(さきやま)・宮原(みやはら)などの拠点をもって過ごしていましたが、その背景にはいつも「ワ(が)マチ」と愛した故郷の一族がありました。
ⅰ 湯浅党と明恵 ⅱ 白上・筏立:十地を超えて ⅲ 糸野・星尾:海の向こうに ⅳ 神谷・崎山・宮原:一門の祈禱師
重要文化財 仏涅槃図(ぶつねはんず)(浄教寺蔵)
釈迦を慈父と慕い、独自の涅槃会を究め続けた
重要文化財 大日如来坐像(だいにちにょらいざぞう)(浄教寺蔵)
湯浅一族のため、神谷や崎山で祈りを捧げる
.重要文化財 文殊菩薩像(もんじゅぼさつぞう)(高山寺蔵)
白上峰での修行中、文殊菩薩が現れた
十六国(じゅうろっこく)大阿羅漢(だいあらかん)因果識見頌(いんがしきけんしょう)・明恵上人筆夢記(ゆめのき)(個人蔵)
筏立でみた夢に登場する十六羅漢は明恵の憧れ
金師子(こんじし)章光顕鈔(しょうこうけんしょう) 巻上・下(永観堂禅林寺蔵)
「高弁」の名乗りを記す最初の史料、紀州で執筆
重要文化財 釈迦如来坐像(しゃかにょらいざぞう)(勝楽寺蔵)
熊野古道が通る湯浅の地と一族の栄華を思わせる
Ⅱ 栂尾より 思想はかたちに
建永元年(1206)、明恵は後鳥羽院(ごとばいん)より高山寺の地を賜り、華厳宗(けごんしゅう)の寺として再興します。ここで、紀州にいたころに考えをめぐらせていた思想や構想が、次々と著作になり、かたちになっていくのです。その思想は、華厳と密教の要素をあわせもつ意味で「厳密(ごんみつ)」と呼ばれます。名高き高僧となって後も故郷への想いとつながりは絶えることなく、示寂の前年、ついに施無畏寺の創建を迎えます。
蘇婆石(そばいし)・鷹島石(たかしまいし) (高山寺蔵)
故郷の島で拾った石を大事に所持
明恵上人像(持経(じきょう)像)(久米田寺(くめだでら)蔵)
高山寺を再興した祖師の姿
湯浅町指定文化財 春日明神立像(かすがみょうじんりゅうぞう)
高山寺の神像とのかかわりも指摘される
Ⅲ 伝説へ 信仰の武士団と春日の神
明恵が没した4年後の嘉禎2年(1236)、弟子の喜海(きかい)は、上人の修行地と誕生地に卒塔婆(そとば)を建てることを発願します。この明恵上人紀州八所遺跡の成立は、まさに明恵上人の「伝説化」として機能し、これを率いた湯浅党は「信仰の武士団」というべき存在でした。明恵が起こしたさまざまな伝説のなかで、とりわけ春日明神の託宣(たくせん)の奇瑞は、中世の春日明神・龍神信仰と相俟(あいま)って鮮やかに造形され、能「春日龍神」といった芸能の世界にも発展していきます。
ⅰ 八所遺跡の成立 ⅱ 生誕地・歓喜寺 ⅲ 湯浅宗業の発心 ⅳ 春日龍神
和歌山県指定文化財 高弁遺跡(こうべんいせき)卒塔婆銘注文(そとばめいちゅうもん)(施無畏寺蔵)
明恵上人紀州八所遺跡に建てる卒塔婆の注文書
重要文化財 地蔵菩薩坐像(じぞうぼさつざぞう)(歓喜寺(かんきじ)蔵)
明恵誕生地として整備された歓喜寺
重要文化財 星尾寺縁起(ほしおでらえんぎ) (高山寺蔵)
明恵の春日明神への信心をめぐって
重要文化財 春日龍珠箱(かすがりゅうじゅばこ)(奈良国立博物館蔵)
春日明神と龍神信仰の秘密
能狂言画帖(のうきょうげんがじょう)(神戸女子大学図書館)
能「春日龍神」
春日権現験記絵(かすがごんげんげんきえ)(春日本) 巻一七・巻一八(春日大社蔵)
星尾での春日明神の託宣を描く
エピローグ 慕うこころ
有田の地に今も生きる、明恵上人讃仰の営み。それは幾度もの遠忌をめぐって、繰り返し、脈々と由緒が語り継がれてきた歴史を物語ります。本展では、国指定史跡「明恵上人紀州八所遺跡」とゆかりの文化財をつなぐ、明恵上人を慕うこころの過去・現在・未来にも目を向けます。
ⅰ めぐる遠忌 ⅱ 夢の跡つぎ
有田川町指定文化財 千手観音立像(せんじゅかんのんりゅうぞう)(成道寺(じょうどうじ)蔵)
ゆかりの寺院に伝わるお揃いの観音像
千手観音立像(施無畏寺蔵)
関連事業
記念講演会
いずれも、14:00~15:30 / 会場:県立近代美術館(博物館となり)2階ホール
※申込不要・参加費無料
①10月21日(土) |
「明恵上人の宗教世界と紀州―明恵上人紀州八所遺跡の構想を手がかりに―」:龍谷大学准教授 野呂靖氏 |
②10月28日(土) |
「湯浅氏三代と有田郡の明恵」:茨城大学教授 高橋修氏 |
博物館講座
いずれも、14:00~15:30 / 会場:県立近代美術館(博物館となり)2階ホール
※申込不要・参加費無料
①11月12日(日) |
「明恵の師―文覚・上覚の流れ―」:当館学芸課長 坂本亮太 |
②11月23日(木・祝) |
「明恵の祈りと美術」:当館学芸員 島田和 |
ミュージアムトーク(展示解説)
10月15日(日)、11月5日(日)、11月25日(土)
いずれも、13:30から /会場:当館1階展示室
※入館手続きをお済ませのうえ、展示室入り口にお集まり下さい。(事前申し込み不要)
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