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ミュージアムトーク1回目(箱と包みを開いてみれば)

本日、6月9日は、企画展「箱と包みを開いてみれば―文化財の収納法―」のミュージアムトーク(展示解説)がおこなわれました。
朝は少し雨が降っていましたが、トークの直前からは少し晴れてきて、参加者は10名ほどでした。
今日は、展覧会のオープン初日でしたし、また、朝から資料の特別観覧や、資料返却の対応に追われ、何かとバタバタしていたため、トークで何を話すかもあまり考えるゆとりがなく、ちょっと不安なスタートだったのですが…。いざトークをはじめてみると、ご参加いただいた方々の反応がよかったこともあり、気が付けばあっという間に、1時間ほどがたっていました。
トークの風景はこんな感じです。
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ご参加いただいたみなさま、お忙しい中、お付き合いくださり、ありがとうございました。
トーク終了後は、熊野速玉大社(くまのはやたまたいしゃ)の古神宝(こしんぽう)についてや、紀州東照宮の徳川家康(1542-1616)の肖像画についてのご質問がありました。
熊野速玉大社の古神宝については、国宝のカウントの仕方についてのご質問で、「1000点」近くある古神宝類を一括して国宝「1件」として指定されているのはなぜですか?という趣旨でした。
古神宝類
こうした文化財の実際の「点数」と、国宝などの指定にかかわる「件数」の問題は、なかなか複雑で、一概にはいえないのですが、資料群としてのまとまりが重要な意味を持つ文化財については、数多くの点数のものでも一括で「1件」として指定されることが、ときどきあります。熊野速玉大社の古神宝ほど大量の数のものを一括で指定したケースは、かなり珍しいといえますが、例がないわけではありません。
一方、徳川家康の肖像画についてのご質問は、神殿の中にいるような神格化(しんかくか)された家康像は、いつごろから描かれるようになり、元になるような絵があったのか?さらに、古いものほど、本当の家康の姿と似ているのか?という重要なご質問でした。
徳川家康像
現在展示している紀州東照宮所蔵の「徳川家康像」は、江戸幕府の3代将軍である徳川家光(1604-51)が夢で見た家康の姿を描かせたとされる、元和9年(1623)の「東照大権現霊夢像(とうしょうだいごんげんれいむぞう)」(徳川記念財団蔵)と、とてもよく似ています。家康の背後に描かれた山水画の描き方などは、少し異なっていますが、おそらく、この「東照大権現霊夢像」が元になったのだろうと考えられます。なお、この紀州東照宮の「徳川家康像」が描かれた時期ですが、左上に書かれた「元和二年四月十七日」というのは、家康の命日であり、この絵が描かれた時期ではありません。ただ、この上部の賛を書いたのは、後陽成天皇(1571-1617)の子である良純親王(1603-69)です。良純親王は家康の養子でもあった人物ですが、寛永20年(1643)に甲斐へ流されているので、この賛や絵は、それ以前に描かれたものと思われます。ちなみに、紀州東照宮に残されている寛保元年(1741)の宝物帳には「御神影 御束帯之御体相 一幅 二品良純親王御筆 御神号左右ニ有之」と書かれていますが、この絵の制作経緯や時期については記されていません。おそらく、「東照大権現霊夢像」が描かれた元和9年(1623)からそれほど時間がたたない時期に、この紀州東照宮の「徳川家康像」も描かれたのではないかと想像されますが、残念ながら、描いた絵師などについても、よくわかっていません。この顔や姿が本来の家康の顔と似ているのかどうかも、気になるところですが、正確なことは不明です。ただ、のちにいくつも描かれる家康像のいくつかは、目玉が少し大きく、特徴的な顔で描かれています。この絵は、そうした特徴がやや薄められている印象もありますが、家康らしい典型的な顔ではあるようです。
トークの最中には、さすがに、これほどくわしい回答をできませんでしたので、こちらの、博物館ニュースの記事を参考にしていただけるとよいのですが…。
ともあれ、トークは、学芸員にこうした質問を直接投げかけられるチャンスでもあります。
その場で充分な回答ができるかどうかわかりませんが、わかる範囲で一生懸命お答えいたします。
ともかくも、まずは、トークに参加してみてください。
次回以降のトークは次の5回です。
6月17日(日)、6月23日(土)、7月1日(日)、7月7日(土)、7月15日(日)
時間は、7月7日以外は、13時30分から1時間程度
7月7日のみは、14時から1時間程度を予定しています。
ぜひ、ふるってご参加ください。(学芸員 安永拓世)
企画展 箱と包みを開いてみれば―文化財の収納法―
和歌山県立博物館ウェブサイト

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