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高野山細見大絵図(館蔵品1114)

高野山細見大絵図(館蔵品1114)
blog館1114高野山細見大絵図 (クリックすると画像は拡大します)
                   
【基本情報】
紙本墨刷 1舗  縦86.5㎝ 横167.4㎝   文化13年(1816)~嘉永3年(1850)刊
【刊記等】
袋・表「再刻/高野山細見大絵図/浪華 橘保春画/板元/永寧坊/成我堂/随古堂」
袋・裏「関宿/上村伴左衛門 主(印)/嘉永三戌年/六月吉日」
表紙(題簽「高野山細見大絵図 全」))
図上部の飾枠内に横書の内題「高野山細見絵図」
図右下部双辺枠内に奥書「于時文化十癸酉載七月吉辰/〈浪華〉橘保春行年六十四歳筆(刻印「保」「春」)」
図右下の双辺枠内に刊記「板元/高野山/山本平六/同/経師八左衛門/名倉市場/寄屋喜兵衛」
【内容】
高野山内を鳥瞰的に描いた木版刷りの絵図。
現在確認されている木版刷りの絵図なかでは最もサイズが大きいもので、。
数枚の板木に刷ったものを一枚に繋いでいます。
上部を北、下部を南、右を東、左を西にして、横長に高野山全体を描き、
山内の塔頭寺院(子院)をはじめ、参詣人や僧侶なども描いています。
本図右上部単辺枠内に「于時文化十癸酉載七月吉辰/浪華/橘保春行年六十四歳筆(刻印「保」「春」)」の刊記があり、
大坂の絵師である橘保春(1750~1816)が、文化10年7月に下絵を描いたことがわかります。
blog刊記1  (クリックすると画像は拡大します)
保春は橘保国の養嗣子となり、保国に画を学んだとされますが、詳しい事績は必ずしもわかりません。
保国の父が橘守国であり、狩野探幽の弟子鶴沢探山の門人であったといいます
(『高野山大学図書館善本叢書 第三巻 高野山大学図書館所蔵 高野山古絵図集成』)。
保春の作品として、これまで確認できるものとしては、
本図と構図が似た「高野山図屛風」(高野山赤松院蔵。図録『西行』(和歌山県立博物館)に掲載)、
本図制作の直前である文化10年5月に描かれた四天王寺に伝来する『聖徳太子絵伝』、
版本には享和3年(1803)刊行の『高野図会』
の挿図などがあります。
このようなことから、高野山と関わりの深い絵師なのではないかとも考えられています。
本図を入れた袋には、
「再刻 高野山細見大絵図」
「旧板雖世弘/摩滅又ハ寺院ノ/改号等不少依之/名所旧跡諸堂社/再寺名等/悉改称校正ノ図/令甫(補)刻者也」
「板元/永寧坊/成我堂/随古堂」
とあり、本図は再刻版であることがわかります。
blog高野山細見大絵図表紙袋  (クリックすると画像は拡大します)
また本図の右下の双辺枠内に
「板元/高野山/山本平六/同/経師八左衛門/名倉市場/寄屋喜兵衛」
の刊記があり、板元が山本平六・経師八左衛門・寄屋喜兵衛の3人であったこともわかります。
blog刊記2  (クリックすると画像は拡大します)
山本平六と経師八左衛門は高野山、
寄屋喜兵衛は高野山麓の名倉市場(橋本市高野口町名倉)を拠点としていたことが肩書からわかります。
西南院所蔵文書(口上覚、日野西真定編『高野山古絵図集成』掲載)によると、
「高野山大絵図株板木は、山本平六先年ヨリ所持仕リ、売リ弘メ居リ申候処、去ル酉年(文化10年)類焼之節焼失仕候」
とあり、もともと版権は山本文平が単独で持っていたようですが、
文化10年に類焼して板木を失い、単独では再刻できなかったため、
3人の連名で学侶・行人両方に再刻を願い出て、
行人方は同13年正月、学侶方は同年2月に許可された
という事情があったようです(『高野山古絵図集成』解説)。
以上から、本図は
文化13年以降に山本平六(永寧坊)・経師八左衛門(成我堂)・寄屋喜兵衛(随古堂)が板元となって、
文化10年の「高野山細見大絵図」を再刻したものと考えられます。
さて、本図に載る図像に着目すると、壇上伽藍大塔の裏に「穀屋」があることがわかります。
穀屋は、米など穀物を喜捨として集める勧進聖の拠点となる寺院で、寺院内ではおもに修造を担当していました。
江戸時代後期においても活動実態は不明ながら、穀屋が存続していたことがわかります。
blog壇上伽藍  (クリックすると画像は拡大します)
また、奥之院に「南龍院」、紀伊初代藩主徳川頼宣の石塔に関わる注記もある点も注目されます。
blog南龍院  (クリックすると画像は拡大します)
紀伊国で印刷されたため、意識的に載せられたのではないでしょうか。
細部に注目して、江戸時代後期の高野山の風景についても改めて検討していく必要がありましょう。
なお、再刻された本図の原図となった文化10年の高野山細見絵図については、
日野西真定氏所蔵のもの、高野山大学図書館所蔵のものなどが知られています。
なかには彩色を施したものもあり、各所で所蔵されています
(和歌山市立博物館編『江戸時代を観光しよう―城下町和歌山と寺社参詣』2014年にも個人所蔵本が掲載)。
【参考文献】
高野山大学図書館編『高野山大学図書館善本叢書 第三巻 高野山大学図書館所蔵 高野山古絵図集成』(高野山大学、2020年)
日野西真定編『高野山古絵図集成』(清栄社、1983年)
日野西真定編『高野山古絵図集成解説索引』(タカラ写真製版株式会社、1988年)
大津美月「高野山古絵図の研究―高野山大学所蔵本を中心として―」『密教学会報』49号、2011年)
(当館学芸員 坂本亮太)

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